第188話 出陣

 それから三人は、何度か転移を繰り返し様々な浮遊島を行き来していた。

 噴火寸前の山、島一面の海、うだるような暑さのジャングル、ある一点にのみ降り注ぐ大雨など、どの島もひと際癖のあるものばかり。

 さらには、何もない空間にぽつりと浮かぶたった一つの魔法陣、という島もあった。

 その島に浮かぶ魔法陣のみ、魔力すら感じることができず転移さえも発動しなかった。

 そうして幾度もいろいろな浮遊島を行ったり来たりした三人が拠点である温泉に戻ってくると、非常に疲弊した様子で仰向けに倒れ込んだ。


「……明らかにおかしいだろ」

「何の法則性もないですし、島の外観と内部の空間があってませんでしたね……」

「空間魔法に、よる……空間、拡張だろ……。決められた、範囲内での空間を捻じ曲げてんだよ……」

「……最初の元気はどうした?」

「いや、もう、無理……。今日は、動きたくない……」


 前日から続いたアイトの元気は、浮遊島転移を繰り返す度、徐々に失われていった。

 過酷すぎる島での魔法陣探しは、想像以上にアイトの体力を奪っていったのだ。


「仕方ないだろ! 他の浮遊島があんな……。ここみたいに穏やかな場所だと思うだろ!?」

「まあ、こんなでも死界の一つだからな。ただで済むとは思っていなかったが、それにしたって何がしたいのか分からないな」

「この庭園を創造した人が、ですか?」

「宮殿に誰も近づけさせたくないのなら、結界を張るとか宮殿自体見えなくすればいいい。これだけの魔法を使えるんだ。簡単だろ。だが、宮殿はあそこにあり、道すじさえ見つければたどり着ける。引き離したいのかそれとも呼び寄せたいのか……。どちらにせよ、あの島の内容は確実に思いつきに違いない。これだけは確信が持てる」


 自信満々に言う煉の言葉に、イバラとアイトは同意した。


「何にせよ、あといくつか言っていない浮遊島は残っているし、魔法陣はまだ半分もくぐっていないわけだ。しばらくはこのまま継続だな」

「また、あんな島の中に行かなきゃならんのか……」

「あれだけ楽しみにしてたのに、今のアイトさんの顔は正反対ですね」


 数時間後には、また魔法陣に乗り浮遊島を行き来しているのを想像したアイトは、苦々しい顔で呟いた。

 それに苦笑しているイバラも、内心はかなり嫌そうにしているようで頬が引き攣っている。


「とにかく飯にして、休もう。俺も疲れた……」


 そう言う煉の瞼が徐に閉じていく。

 そして煉は夢の世界へと旅立っていった――。




 ◇◇◇




「――姉様、準備はよろしいですね?」

「あたしの準備はずっと前からできてるよ。この時を楽しみにしていたんだからな!」

「いつもでしたら、もう少し淑女然としていてほしいのですが、今日は見逃して差し上げます。姉様のお気持ちに水を差すわけにはいきませんもの」


 そこは天上世界と地上の境界。

 数百を超える同じ顔をした数種類の天使が宙で膝を突き、頭を垂れていた。

 そんな天使たちの前で、ひと際魔力を滾らせ好戦的な目を浮かべている赤髪の天使ウリエル。

 赤い雷を漏らす長槍と傍らに凛と佇むラファエルと共に、膝をつく天使たちの前に立った。


「ひぃ、ふぅ、みぃ……まあ、こんだけいれば足りんだろ。とっとと行くぞ! 遅れた奴は承知しねぇ。これから向かうは、『忌まわしき島』だ! 何も考えず、己が任を全うしやがれ! ――――出陣!!!」


 そう言い残し、ウリエルは最大速度で空中庭園に向かって飛び出した。

 天使たちは何の感情も抱かず、淡々と翼を広げウリエルの後を追う。

 置き去りにされたラファエルは、深いため息を吐きやれやれと頭を振りゆっくりと優雅に天使たちの後ろをついていった。






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