第187話 神殿と石像

「……なんだ、これ?」


 荒廃した島に佇む古い神殿と、周囲に散りばめられた巨大な像を見て首を傾げる三人。

 近づいたり距離を取ったりと様々な角度からじっくりと観察すると、それらが何かを表していることに気が付く。


「天使と……人間、 それに魔族か?」


 翼が生えなぜか宙に浮いている像とそれと相対するように武器を構えている人間の像、そして同じように天使と対峙している魔族を模した像。

 三つ巴の戦いというより、天使対人間と魔族の連合のような構図。

 いつか起きた戦争なのか、何のために作られたものかを考察している煉とは違い、アイトは宙に浮いている像を解明しようとしていた。


「こんな巨大な石像が浮いているなんてっ!! 原理は!? 魔法陣もない、魔力の痕跡もない、しかし魔法であることに間違いない! すっげぇぇぇぇ!!!」


 大興奮だった。

 今まで見てきたよりも、激しく跳びまわり雄叫びを上げている。


「気になるのはそっちなのか。確かに不思議だけどな」

「まあ、アイトさんですから。それよりもこれ……過去にあった戦争ですよね」

「そうだろうな。でも、人間と魔族が手を組んで天使と戦ったなんて、どの文献にも書いてないぞ。人間たちからしたら魔族は恐怖の対象で、敵だから当然と言えば当然だが……」


 頭を悩ませていても、答えは一向に出ない。

 答えの出ないことをいつまでも考えていても仕方がないと思った煉は、一旦石像と興奮しているアイトを放置し、風化している神殿の中へ足を踏み入れた。

 今にも崩れそうな状態で残存している神殿は、煉の世界にあった有名な神殿と相似していた。

 それは神を祀る神聖な場所であり、そのことに煉は少し顔を顰めた。


「今の俺にとって神を祀る場所ってのは良い気がしないな。こんな世界に来ないで何も知らないままだったら、もっと純粋に見れたのかもしれないが……」


 と、煉は自嘲気味に笑う。

 隣で神殿を眺めるイバラが、何かを見つけた様子で小走りで石壁に駆け寄った。

 煉の方を振り返り手招きをする。


「レンさん、これ!」

「んー……文字か? 読めねぇな」


 石壁には、文字が刻まれてあった。

 案の定古代文字で、煉には読むことができなかった。

 他にも何かないかと視線を巡らせると、風化して崩れ落ちた壁にはうっすらと壁画のようなモノが描かれていた。

 その壁画も、崩れた石壁では何が描かれているか判別することができない。

 煉が少し残念そうにしていると、イバラがぽつりと何かを呟いた。


「……帝……暦4……4年、人魔決戦。神を……介入、天使……来……?」

「!? 読めるのか!?」

「いつの日か、母が読んでくれた絵本に書かれていた紋様と同じものでした。もしかすると、母は古代文字が読めたのかも……」

「何者だったんだ、イバラの母親は……」


 驚愕する事実に、謎は深まるばかりであった。


「――――もしかして、浮遊島と同じ原理か!? だとしたら、やっぱり継続的な浮遊魔法が存在するってことか!!!」


 そんな中、神殿の外にいるアイトの叫び声が響いた。

 二人は顔を見合わせ、深くため息を吐いたのだった――。








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