第186話 古代文字と鬼の魔法
温泉付近にて夜を明かし、休憩を終えた三人は再び庭園内を歩き回っていた。
目的は、アイトの話に合った魔法陣を探ること。
所々に点在する魔法陣が一体どの魔法陣と繋がっていてどのルートを辿れば宮殿に近づくことができるのか、それを見極めなければ死界の攻略に進めないのだ。
「――というわけで、一日で出来るだけ多くの魔法陣を観察したいから、サクサク行こう!」
「なんでそんなに元気なんだ……」
「……アイトさんにとっては楽しいんでしょうね。一体いくつの魔法陣があるのか把握しきれていないというのに。それを全部確認しなければならないなんて」
やる気に満ちたアイトとは反対に、煉とイバラは項垂れていた。
これから行うのは地味で単純、研究者や魔法好き以外からしたら苦行に近いものだ。
いくら死界攻略のためとは言え、進んでやりたいとは思わないだろう。
はっきりと言ってしまえば、煉もイバラも面倒くさいのだ。
「おいおい、どうした? もっと元気出していこうぜ! こんなに楽しいとこなんて他にないぞ。いやぁ、死界って言うからにはどんな危険な場所かと思っていたが、こんなに胸が躍るような場所だったなんてな!」
そうしてウキウキなアイトを先頭に、一行は歩き始めた。
これからは温泉を拠点として死界の攻略に励む。
しらみつぶしに魔法陣を当たる作業の癒しとしては、温泉が最適だったのだ。
それから程なくして、温泉から一番近い魔法陣に辿り着いた。
「見ろよ、これ! 文字は全部古代文字だ! 読めはしないが、向上的な発動をする仕組みになっているんだろう。一体どうやって魔力を賄っているか理解不能だ。これが数百年を超えて今もなお発動しているだなんて!」
と、興奮した様子のアイト。
イバラも魔術師として少し興味があるのか、魔法陣をじっくりと観察している。
「これ、どこかで……そう言えば、鬼族に古くから伝わるモノに近いような……?」
「え――!? 何それ!! 詳しく!!」
「ちょっ、アイトさんっ、近いですって……!」
イバラがぽつりと呟いた言葉に盛大に反応したアイトは、物凄い形相を浮かべイバラに迫った。
少し落ち着けと、煉に大人しくさせられる。
アイトが離れてから、イバラは記憶を辿るように少しずつ話し始めた。
「えっと……確か昔母に教えてもらったことがあるんです。鬼族特有の魔法について。その魔法書を少し見せてもらって……ぼんやりとしか覚えていないんですが、それと似ているような気がして」
「鬼族特有の魔法……思い当たるのは、過去一国を亡ぼしたシュテンという名の鬼が使っていた降霊魔法、それにイバラちゃんの感応魔法。他のもまだまだありそうだな。くそっ、こんなことならもっと調べとくんだった!」
そう言って地面を叩くアイト。
本当に悔しそうな様子に二人は顔を見合わせため息を零した。
「それは後でいいだろ。とりあえず、この魔法陣がどこに繋がっているのか確認しようぜ」
「それもそうだな。よしっ! 俺が一番のり~」
そうして浮かれた気分のまま、アイトは魔法陣の上に乗ってどこかへと消えた。
警戒心も何もないアイトを見て、煉は頭を抱えた。
冒険者として大事なものを忘れていると、あとでお説教が決定した瞬間だった。
そして煉とイバラも魔法陣に乗り、転移した。
転移した先は、先ほどまで居た場所とはまったく別の浮遊島で、景色も一変した。
見渡す限りの荒野、その中に佇む廃れた神殿。
その周囲に立ち並ぶ、無数の巨大な像。
それはまるで何かを風刺しているかのようだった――。
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