第185話 庭園の仕組み
「……なあ、ここに来てからどれくらい経った?」
「まだ半日くらいですかね~……」
「そうかぁ……」
緊張感の欠片もなくのんびりとした声を出し、ホッと息を吐いた煉。
三人は、庭園へと足を踏み入れてから数時間歩き回り観察をしていたのだが、少し高台にある小さな温泉を見つけ、それから一歩も動かずにそこに居た。
どういう原理で温泉が湧き出ているのか理解できないでいるのだが、そんなことも気にならないほどそこから眺める庭園の景色は素晴らしいものだった。
その場所は庭園の景色が一望でき、周囲に浮かぶ小さな浮遊島と空高く輝く月や星々が合わさり、より美しさを際立たせていた。
そんな景色を長時間眺め続けていた三人は、当初持っていた緊張感や険しさはどこかへと消え去り、時間の流れが違うと錯覚するほどにゆったりとしていた。
「なんか……やる気なくなってきたわぁ。ふぁ~、ねむ……」
「同感ですね……私も、少し眠くなってきて……」
煉とイバラは温泉で足湯を堪能しながら、同じような動きで欠伸をした。
完全に気が抜けているようだ。
しかし、そんな二人を置いてより元気になっている者もいた。
「――おい! 見ろよ、これ! 温泉の底に備えられている魔石! 地上にあるものと純度が桁違いだ! 迷宮産の魔石でも、こんな高純度の魔石なんて出てこないってのに。ちっくしょー! 持って帰りてぇ!!」
「……」
「……」
「ん? どうした、二人とも。そんな馬鹿な子供を見るような目で俺を見て」
「……花より団子、いや、景色より魔石って感じだな」
「アイトさんて、情緒とか感じないタイプの人だったんですね。アリスさんも苦労されたことでしょうね……」
「え? なんで今アリスの話? ちょっ、やめてっ。そんな可哀想な子を見るような目で俺を見ないで!」
煉とイバラの視線に耐え切れず、居心地の悪さを感じたアイトは少し大人しくなった。
それでも、キョロキョロと視線を動かし周囲の全てを観察している。
魔法や魔道具に目がないアイトらしいと言えばそうなのかもしれない。
「……そう言えば、宮殿には行けなかったなぁ……」
「そうですね。宮殿に行くにはいくつかの手順をしっかりと踏まないといけないみたいですね」
「凄いよな! こうして目の前に大きな宮殿があるのに、魔法によって簡単には近づけないようにされているなんて。そこらを歩いている人たちに聞いたけど、女帝やその関係者以外、宮殿への行き方を知らないみたいだったぜ」
「お前、いつの間に……」
「魔法の事となると、行動力が違いますね……」
アイトの推測では、浮遊島に点在する魔法陣が島の移動と扉の役割を担っているという。
宮殿へ行くためには、その魔法陣を正しいルート、正しい順番で通る必要がある。
その正しいルートを探すには、まず魔法陣同士の繋がりを把握しないといけない。
「え、だるっ」
「やっぱり、簡単にはいかないみたいですね。幸い魔獣がいるわけではないですし、他の死界よりは安全かと思いますけど」
「楽しみだなぁ。チラッと見ただけで、現代の魔法とは比べ物にならないほどの技術を感じたぜ。じっくりと観察してみたいもんだな!」
ウキウキとするアイトの横で、煉は盛大なため息を吐いたのだった。
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