第238話 屍鬼と猛犬
煉とコノハが妨害を受けていた頃、他の場所でも数名の冒険者が妨害されていた。
狙われた冒険者たちは、皆ソロで行動している者たちだった。
「――魔術師一人で何ができる!? 少し痛い思いをしてもらう。行くぞ、お前ら!」
全方位から一斉に襲い掛かる冒険者たち。
その中心で標的とされた魔術師姿の女性は、口元に三日月のような弧を描き笑う。
生気のない青白い肌と相まって不気味さを感じる笑みだった。
「ふふふ……私がなんて呼ばれてるかご存じ? ――『屍鬼』よ。私が一人なのは、仲間なんて要らないから。私には……屍があれば十分」
手に持つ古木の長杖でトンッ、と地面を軽く突くと彼女の足元から影が広がっていく。
広がった影から重厚な鎧を纏う騎士や虎、狼などの獣が姿を現した。
その姿は生物とは思えないほど禍々しく、赤く光る眼が不気味さを増長させる。
「こ、これはまさか……死霊魔法!? 禁忌指定の魔法のはずじゃっ……!?」
「そんなもの、七神教が勝手に決めただけじゃない。私には関係ないわ」
さらに影から、翼の生えた巨大な竜が顔を出す。
その青黒い鱗に目を奪われる。生きていれば鮮やかだったろうに。そんなことを考えている余裕すら失った。
死して尚、圧倒的な存在感を放つ竜の存在に冒険者たちは腰を抜かす。
「どうやら、狙う相手を間違えたようだ……」
「うふふ……殺しはしないわ。試験に合格しなければ意味が無いもの。でも……すこーしだけ、痛い思いをするかもしれないわね」
◇◇◇
「どうした、どうしたぁ!! こんなもんかぁ!!?」
両の手で器用に長槍を振り回し、周囲で自分を囲む冒険者たちに吼える。
鍛え上げられた肉体と体の一部のように振り回す槍の技量、歴戦の勇士を思わせる精悍な顔つき。
それでいて齢二十を超えたばかりという若さ。
とある国の騎士を辞め、冒険者になってから三年間ひたすら戦い続けた男は、「双槍の猛犬」と謳われるほどに名を挙げた。
数々の戦歴に裏付けされた実力を知らない冒険者はいない。
ただ一つ問題があるとすれば……加減を知らず無意識にやりすぎてしまうことだろう。
彼が行く先々で頭を抱えるギルドマスターは絶えない。
ある意味問題児としても有名だった。
「お前らが始めた喧嘩だ! このウリン様を楽しませてみろ!!」
「くっ……猛犬がっ。調子に乗るなっ!!」
「はっはー!! その調子だ! もっと、もっとだ! もっと、来いっ!!」
獰猛な笑みを浮かべ、楽しそうに叫ぶウリンはその後冒険者たちが一人残らず倒れるまで戦い続けた。
ピクリとも動かない冒険者たちを一か所に集め、仰向けで寝かせる。
その時のウリンは眉間に皺を寄せ、苦渋の表情で唇を噛みしめていた。
「……また、やってしまった。戦闘になるといつもこうだ。俺はもう……過ちを犯したくはない」
◇◇◇
「ねぇ、お兄さーん。ちょっとだけ。ちょっとだけでいいからぁ~」
「ダメだ。お前とやるとちょっとじゃ済まねぇ」
「えぇ~。ケチ~」
ぶーぶー、とむくれるコノハ。
陽が落ちて暗くなった森の中で野営をする二人が何をしていたかと言うと――
「いい加減寝ろ! トランプは散々やっただろうが!!」
「だって! こんな楽しいものがあったなんて知らなかったもん! お願い……あと少しだけぇ……」
「ダメだ。もう五時間はやってる。お前のせいで、こんな場所で足踏みしてんだからな! てか、五時間も付き合ってやってまだ足りねぇのか!」
「足りない! もっと!」
他の冒険者たちがせっせと試験に励んでいる中、二人仲良く煉が持っていたトランプに興じていた。
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