第237話 妨害

 煉は近くに落ちていた木の棒を拾い、軽く振って感触を確かめる。

 そしてフッと笑みを浮かべると木の上の男へと視線を向けた。


「それで? あんた、何?」

「俺たちの名を挙げるためだ。その礎となってもらおう」

「ふ~ん。監視が付いているのは受験者のみ。パーティメンバーはそれなりに自由に動けるかもしれないが……あんた一人で? 俺とこいつを? 随分と舐められたもんだな」

「そうだね~。あの人、そんなに強そうじゃないから、少し退屈かもぉ」

「バカにしやがって……っ」


 事実、煉たちを襲ったこの男はBランクの冒険者だった。

 Sランク推薦を受けたAランクの冒険者を相手取るには困難だろう。

 それでも、何か策があるのではないかと思って期待している煉だった。

 すると、全方位から煉とコノハを囲むように人の気配が増えた。

 どうやら二人は囲まれているらしい。


「確かに俺一人では無理だ。かの『炎魔』と『黒獅子』の弟子……相手にもならないことは理解している。だが、それならば数で勝ればいい。他のパーティも承諾している。有力候補のお前らを潰せば、Sランク昇格の可能性が上がるからな」

「……なるほど。一週間でAランクパーティが手を組んだか。自分の利益のためとは言え、失格の可能性すらあるというのに。なかなか面白い考えだけど――足りないな」

「……何?」

「足りないって言ったんだ。たかがBランク冒険者が十数人。ギャグで言ってんなら笑ってやるよ」

「ふんっ。強がりを……。貴様はあの時ギル・ブレイダーの言葉を否定しなかった。つまり、奴の推測は正しかったということだろう? 金で功績を捏造するなど、冒険者の風上にも置けん! 粋がるのもここまでだ! お前ら、行くぞ!!」


 まさか、ギルの言葉を信じている者たちがいるとは思わず、煉は顔を顰めた。

 呆れたようにため息を吐き、細い木の棒を一振り。


「はぁ……。馬鹿がこんなにいるとは思わなかった。コノハ、お前はどうする?」

「ウチは見てるね~。この人たちと戦うより、お兄さんが戦ってるとこ見る方が面白そうだし」

「……めんどくせぇだけだろ」


 煉がそう呟いたと同時に、茂みや木の陰から武器を手にした冒険者たちが一斉に飛び出してきた。

 中・長距離から弓や短剣、魔法で煉の動きを牽制し、至近距離に迫った剣や槍が煉に襲い掛かる。

 一時的な協力関係とは思えないほどの連携に、感心したように声を漏らす。


「へぇ。意外とやるじゃん」

「そんな木の棒でどうするつもりだ? 潔く腰に下げた剣を抜け! 俺たちを馬鹿にしてるのか!?」

「バカだとは思ってるが、馬鹿にはしてないさ。それに――お前ら程度、これ一本あれば十分だ」


 煉は、頭上から振り下ろされる剣や心臓目掛け突き出される槍に木の棒を沿うように当て、受け流す。

 一太刀も浴びず、木の棒が折れることすらない。

 軽く受け流された冒険者たちの顔が驚愕に染まる。


「い、今何が……」

「いつの間にか、奴があそこに」

「どうして、俺が倒されているんだ……!」

「ただの木の棒にしか見えないが、あれが武器なのか!?」


 自分が何をされたかすら理解できず、困惑している。

 遠くから矢が飛んでくるも木の棒で叩き落とし、魔法すらそれで斬り捨てた。

 得体の知れない何かを見たような表情で、冒険者たちの動きが止まった。


「なんだ。こんなもんか」

「き、貴様、一体何をした……?」

「これで斬っただけだが?」

「たかが木の棒にそんなことができるはずないだろ!!」

「この世界の人間には便利なモンがあるだろ? 誰でも持ってる、魔力ってやつが」

「それがなんだと――」

「――そんな馬鹿なことがあるか!!」


 遠くから魔術師のローブを纏った男が叫んだ。


「武器に対しての魔力付与はかなりの集中力がいる。それこそ、ミスリルほどの魔力伝導率が無い限りは。だが、木の棒を剣に対抗し得るほどの硬度まで強化するなど、そんなこと不可能だ! 均等な魔力付与、持続性、そんな高度な魔力操作など、そんなことができるのはかの『破滅の魔女』くらいだ!」

「自分の実力不足を棚に上げんなよ。こんなもん練習すれば誰でもできる。うちの魔女っ娘はそれこそ息をするようにできるさ」

「そ、そんな馬鹿な……」


 魔術師の男が煉との実力差を悟り、絶望した様子で膝をつく。

 それが伝播したのか、他の冒険者たちも一歩ずつ後ずさりして離れていく。


「あっけないもんだな。しょうもないバカの、馬鹿みたいな話を信じてこんなくだらないことしたんだ。もう少し自分の頭を使って情報収集に力を入れるんだな」


 項垂れる冒険者たちを置いて、煉は先へ進む。

 その後ろを、コノハが楽しそうに満面の笑みを浮かべてついていくのだった。







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