第105話 vs 邪竜 ②
「おお。本当に斬れた」
さっきまでの硬さが嘘のようで、煉は少し感心していた。
片翼を斬り落としたことで、邪竜はバランスを崩し地に堕ちていく。
下にいた神殿騎士たちは墜落してくる邪竜を見上げ、蜘蛛の子を散らすように逃げまわっていた。
邪竜から怨嗟の声が聞こえてきた。
『おのれぇ! 我が障壁をこうも容易くっ。許しませんよ、人間!』
真っ直ぐ堕ちていく邪竜の着地点は大聖堂の真上だった。
邪竜の体によって教国の象徴ともいえる大聖堂は崩壊した。
それを見て、煉は残念そうな顔をしていた。
「あーあ。大聖堂があんなに粉々に……。なんか申し訳なくなってきたな」
「御自分でなさったのではないですか。白々しいにもほどがありますね。まあ、いいでしょう。建て直せば良い事です。それよりも、こうして地に堕ちてくれた方が楽ですね」
「だな。ずっと飛んでるのも魔力消費がとんでもないからな」
『ふんっ。いい気になるのも今の内ですよ。邪竜ファブニールが災厄と呼ばれる所以、とくと味わいなさい! ひっほっほっほっほ!!』
そうして邪竜はさらに魔力を放出した。
すると、空を覆う黒雲が邪竜の周囲に発生し、形を変えていく。
その姿は、槍を携えた黒いリザードマンと化した。
大聖堂付近を埋め尽くすほどの数で、離れて様子をこちらの様子を伺っていた神殿騎士たちも囲まれている。
教国は特殊な結界に守られていたことで、魔獣が近寄ることが滅多になかった。
そのため教国民は魔獣というものを書物でしか知らない。
初めて目にする本物の魔獣に、神殿騎士たちは動揺しながらも、各隊長の指示に従い隊列を組んで、戦う意思を示した。
「こ、この国は我ら神殿騎士が守るのですっ! 皆、諦めないでください!」
「そうです! 私たちの命に代えても隊長をお守りするのです!」
「ちょ、きゅ、キューネ!? 私を守るのではなくてですね……」
どうやらイリスたちもこの場にいることに気づいた煉。
いつも通りのようで、少し安堵していた。
『我が眷属たちです。この数を相手に戦い続けることが可能でしょうか。わたくしを倒さない限り無限に湧き出てきますよ。ひっほっほ!』
「雑魚がいくら増えても変わらねぇだろ」
「正直、狩る首が増えて面倒ですが。この場には騎士たちもいるようです。彼らに任せるとしましょう」
そう言ってマリアは、大鎌の柄で地面を叩いた。
コンッ、という音が反響し、マリアの足元に白い魔法陣が出現した。
その魔法陣から発生した白い雲が、リザードマンにまとわりつく。
「〈
そして一言。
そう呟くと、雲に覆われたリザードマンはふらふらとおぼつかない足取りで歩き回る。
意識はあるようだが、焦点が定まっていないようだ。
「眠気によって一時的な思考停止状態です。討伐が楽になることでしょう。仮にも邪竜の眷属です。騎士たちに何かあっては今後困りますから」
「なんだ。優しいんだな」
「当然です。なんたって聖女ですから」
マリアは誇らしそうに胸を張った。
煉は呆れたようにため息を吐き、肩を竦める。
邪竜は悔しそうに唸り声をあげた。
『小癪な……ッ。やはりわたくしの邪魔をするあなた方から排除するしかないようですねぇ。邪竜と化したわたくしの力で、あなた方に恐怖を刻み込んで差し上げます!!』
「さて、第二ラウンド開始と行こうか!」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます