第4話 理由

 煉のステータスが表示された瞬間、誰もが怪訝な表情を浮かべた。

 ジョブはなくスキルはそれなり。だが、初めて見るエラー表示に困惑している。

 そのような中でも美香は気にすることなく、煉に声をかける。


「やっぱり。煉もおかしいじゃない。というか、煉の方が異常なんじゃ?」

「バカ言え。俺の方がまだましだ。それにこんなの何かのミスだろ?」

「それなら私のもミスよ。天才とかバカにしているとしか思えないもの」

「事実なんだから、何一つミスないだろ。…………まあ、勇者より上とは思わなかったが」

「そんなの私に言われても困るわ。それより刀術って何? 刀使えるの? 煉が? ウケる」

「いや、知り合いの道場で教えてもらってたことあるから。別に面白いこととか特にないから」

「何よそれ。私そんなこと知らないわよ」

「言ってないからな」

「煉のくせに生意気ね」

「痛っ。い、痛いから、脇腹をつねるな」


 相変わらずである。

 そのおかげか、皇帝はハッとして話を変えるように勇者たちを促した。


「これで全員分の測定が終わったな。では、次の説明に参ろう。其方らも聞いてくれるな?」


 煉と美香はうなずいて元いた場所へ戻っていく。

 その間も二人は何か話していた。

 それを見つめる狂気の目。

 その視線には誰も気づかない。


「まずは先ほども話した通り、其方らを召喚した理由だ。それは偏に国の安寧のためである。世界は今戦乱の時期にある。魔王率いる魔族国家だけでなく、各国それぞれの思惑により、各地で争いが止まない。我が国の平穏を保つため、神は我らに神託を下した。故に其方らがここに招かれたというわけである」

「つまり、王様は俺たちを戦力として扱うということですか?」

「そうなるのが余の理想である。第一に考えるのは魔王討伐だが、その間も各地の戦は収まることはないだろう。それに対処するために戦力を増強するという意味合いもある。しかし、その決め手は全て神の思し召しである」


 神、と言葉を発するだけで、美香の中での疑念は深まっていく。

 どうしてそこまで存在していないものを信じ切れるのかと。

 煉は煉で、そんなことのために俺たちを召喚したのかと呆れた顔をしている。


(さっきから神様神様って、何なのこの人たち。自分の力でどうにかしようとか思わないわけ?)

(仕方ないだろ。俺たちの世界と違うんだ。できることに限りがある。それにこの世界のことを知らないんだから、今はまだ何も言えないだろうよ)

(……そうだけどさぁ。それでもじゃない)

(はいはい。わかったから、今は静かにしてろ)

(むっ……)


 頬を膨らませて煉を睨むが、当の本人は無視を決め込んで皇帝の話に集中している。

 彼の中で優先順位は情報収集なのだ。


「無理して納得してもらわなくても良い。其方らを強制するつもりはない。其方らの意思によって我らに協力してほしい」

「って言われても……」

「魔王だけじゃなくて戦争もしてるんだろ……。そんなのどうしろって言うんだよ」


(まあ、普通はそう思うよな。……あほが変な事言わなければ、の話だが)


 煉はこれから起きることを予想して、ため息を吐いた。

 その心情は、面倒なことになる、と言わんばかりに。


「――俺はやりますよ! せっかく勇者として選ばれたんだから、困っている人がいるというのなら助けます!!」

「さっすが天馬! 天馬ならそう言うと思ったぜ!」

「まさしく勇者ね! 天馬君にぴったり」


(…………ほらな)


「……そうか。この国を治めるものとして感謝する。此度はこれまでとする。突然のことで其方らも疲れたことであろう。ゆるりと休まれよ」


 煉は、のん気な奴らだとどこか他人事のように見ていた。

 そして再びため息を吐き、美香と並んで玉座の間を後にした――。






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