第242話 vs キメラ
「……な、何を言うのかと思えば、君個人の好みではないカ。そんなもので、ボクの研究の邪魔をするなんてネ。まったく人間というものは、いつまでも愚かなムシケラダ。せっかくだ、君にはボクの最高傑作の実験台になってもらうヨ!」
ダヴィンは巨大な水槽に手を翳し、魔力を込めた。
すると、中にいた竜頭牛体のキメラが目覚め、水槽を壊して外に出ようとする。
いつの間にか手には巨大な戦斧が握られ、よく見ると足も少し違う魔獣が組み合わされていた。
「頭部は火竜、体は上半身はキングミノタウロス、下半身はソニックゴートの変異体ダ。
ここで”キメラ”について少し教えてあげよウ。
”キメラ”は錬金術によって製造すル。しかし、違う魔獣を組み合わせるというのは簡単ではなイ。組み合わせによって相性があル。それが合わなければ”キメラ”として成り立たず素材の無駄遣いとなル。
だが、その問題の改善点をボクは発見しタ。それは――魔石の合成ダ。
一般的に知られている”キメラ”の製造法はただ二種類の魔獣の体を組み合わせるのミ。どちらかの魔石を核として使用し、魔石との相性によって成功確率が変動すル。
しかし、魔石を合成することで二種類の魔獣の性質を持った魔石を生み出すことができタ。合成魔石が作れたことによって、成功確率は格段に上がっタ。
そして今回の最高傑作がこれダ! これは、三種類の魔石を組み合わせることで成り立っていル。火竜の魔法、キングミノタウロスの怪力、ソニックゴートの敏捷性、全てを兼ね備えた”キメラ”の完成サ! こいつがいれば、”災厄の獣”も”四凶獣”でさえ、怖いものなんてなイ!」
ダヴィンは恍惚とした顔で狂笑する。
それと同時に、キメラが水槽を壊して外に出てきた。
さらに、周囲に並べられていた水槽からもキメラが抜け出し、煉を取り囲む。
その光景に、ダヴィンは勝ち誇ったような笑みを浮かべた。
「優に千を超える”キメラ”だヨ! この数を相手にムシケラ風情がどう立ち向かうか、是非見せてごらんヨ!!」
「――〈
煉は小さく呟く。
足元から赤い魔法陣が広がり、煉を囲むキメラを魔法陣から発せられた炎のドームで閉じ込めた。
実験場だった広い空間は、一瞬にして紅に染まる。
辛うじて陣の外にいた――いや、意図的に煉が陣にいれなかったのだろう――ダヴィンと巨大キメラ。
数分し、炎のドームが消えるとすると煉を取り囲んでいたキメラや実験機材の水槽など、全てが焼失した。
「……ハ?」
「……さっきから、ムシケラだなんだと言ってるが、ムシケラ以下のお前は一体何なんだろうな?」
「う、うるさイ! ボクにはまだこいつがいル! 行ケ! 奴を……殺セ!!」
主の命を受け、キメラが雄叫びを上げる。
それは竜の叫びと同等のモノで、煉は思わず耳を塞ぐ。
隙を見せた煉の背後に一瞬で回り込んだキメラは、煉の頭上から戦斧を振り下ろした。
衝撃で地面が陥没し、轟音が洞窟内に鳴り響く。
「……あっぶね。さすがに手抜いてるわけにはいかないか」
煉は腰に下げた「神斬」に触れる。
ちらりとダヴィンに視線を向けると、何かの魔法の準備をしていた。
詠唱や魔法陣から推測するに、転移系の魔法だと予測する。
「逃げる気かっ」
「それが動き出せば、後は勝手にムシケラを蹂躙してくれることだろウ。ボクは新たな別の研究所に向かウ。精々、抗ってみせ――がハッ!?」
小さな黒い影が、一瞬にしてダヴィンの懐に潜り込む拳を突き刺した。
プクーっと頬を膨らませたコノハは、不満そうな顔を煉に向ける。
「ウチがお菓子食べてる間に、お兄さんだけ遊んでてずるい! ウチも混ぜて!!」
「遊んではいないんだが……まあ、ナイス。っと」
乾いた笑みを浮かべる煉は、キメラの猛攻を回避しつつ、コノハに指示を出す。
「そいつ、話を聞きたいから、動けないように、しといてくれ」
「しょうがないなぁ。今回だけだからね♪」
そして煉はキメラに向き直り、抜刀。
紅い刀身が鮮やかな光を放っている。
魔力伝導も問題なし。実戦で初めて使うはずなのに、よく手に馴染む。
良い得物を手にしたと、煉は笑みを浮かべ心の中でクレアに感謝する。
腰を落とし、顔の横で刀を構え切っ先をキメラに向ける。
魔力を込めると、紅い刀身の上に蒼炎が走り、蒼く染め上げた。
足の速いキメラが、その足を止めた瞬間を狙いすまし――
「花宮心明流炎の型五の太刀〈蒼炎・獅月〉」
振り下ろした戦斧は空振り、煉のいた場所には蒼い炎の残滓のみ。
既に煉の姿はキメラの背後。
キメラの心臓付近には風穴が開き、遅れてパキン、という音が静かに鳴り響く。
核となった魔石を貫き、さらに追い打ちでキメラの心臓から蒼炎が燃え上がった。
「もし次があるなら、魔石の位置くらい偽装しろ。強烈な魔力でバレバレだぞ」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます