第13話 目覚め
「――――はっ!」
目覚めるとそこは変わらず洞窟の中だった。
サタンはいないし、魔法陣も消えていた。
そして煉の体は完治していた。
まるで怪我なんてしていなかったかのように。
「……もう少し話がしたかったんだがな。まあ仕方ない。……それにしてもこれは……目立つなぁ」
煉は自分の右腕を見る。
腕には炎のような紋様が右腕を埋め尽くしていた。
それは腕だけでなく、右目の下から足先まで続いていた。
右半身全てが炎に包まれているかのように。
「これも契約した代償ってか。ていうか神を殺せってどういうことだよ。説明不足にもほどがある。死にかけてたからしょうがないかもしれないが、圧倒的に知らないことが多すぎる」
煉はひとりぶつぶつと呟きながら、水場を探す。
喉が渇いていること、そして体に付着した血を洗い流したいと思った。
そうして洞窟内を歩き回る。
何処からか水音が聞こえているから、近くに何らかの水場があることは確信していた。
「それにしても体が軽いな。さっきまで死にかけていたとは思えない。そういやサタンが消える前に何か言ってたな。確か……人間やめることになる、だっけか」
煉はその意味を考えながらも、死にかけから回復し油断しているのか、警戒もせずに歩き回っていた。
「ブモォォォ!!」
「やべっ。油断した」
煉の正面に黒いミノタウロスが現れた。
警戒を怠っていた煉はミノタウロスが徘徊していたのに気が付かなかった。
「ブラックミノタウロス。確か危険度S。三メートルほどの体躯でなぜか斧を持ち歩いている魔獣、だったな。いや、本当に斧持ってるや。どこで拾ったんだよそんな物騒なもん」
油断したと言いつつも冷静に分析する煉。
エンペラーベア―よりはランクの低い魔獣とは言え、危険なことには変わりない。
しかし、煉はどこか余裕そうに眺めていた。
「なぜだか怖いって思わないんだよなぁ。一体どうしたって言うんだ?」
「ブモォォォ」
ミノタウロスが斧を振り上げた。
狭い洞窟内では避けられるスペースは限られる。
それでも煉の心に焦りはなかった。
「不思議とサタンからもらった力の使い方がわかる。まるで自分が昔から使っていたみたいに」
そう言って煉は右手に炎を纏わせた。
煉の持っていたスキルではできない芸当が簡単にできるようになっていた。
「ブモォォォ!!」
「小手調べだ。――――オラァッ!!!」
振り下ろされた斧に合わせるように、煉は拳を突き出した。
凶悪な斧と人間の拳。ぶつかり合う二つの力が激しい衝撃波を生み出す。
そして衝撃に耐えきれなかった斧は砕け、勢いで飛び出した炎がミノタウロスを焼き尽くした。
「…………は?」
自分でしたことだが、さすがの煉も驚愕した。
明らかに自分の想像をはるかに上回る力だった。
「……いやいや、まてまて。おかしいだろこれ。ちょっと理解が追いつかない。ゆっくりと整理する時間が欲しい。さすがの俺でも対応に困るって……」
そう言って煉はまた歩き出した。
ミノタウロスの後ろに小さな泉が見えていた。
とりあえず煉は泉で状況と情報を整理することにした。
その前に、一回落ち着くため水を一口飲んで深呼吸をした――。
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