第63話 唐突な招待
煉とイバラは、メェティス神皇国クラフト城謁見の間にて、皇王と対面していた。
周囲には貴族や勇者、騎士の他に冒険者や傭兵が集っていた。
その場になぜ煉とイバラまで呼ばれたのか理解できず、煉は怪訝な顔をしていた。
傍らではイバラが緊張した様子で煉の後ろにぴったりとくっついていた。
「……………俺たち何か悪い事したっけ?」
「……し、知りませんよ! というか陛下の御前なのですから静かにしていてください!」
煉とイバラは周囲に聞こえないよう小声で会話していた。
中心にいるため、声は聞こえなくとも会話していることはバレているのだ。
一部の貴族は嫌そうな顔で煉たちを見ていた。
「………どうしてこうなったんだか」
事の発端は数時間前。
二人が宿の食堂で朝食を取っていた頃。
食事をしていた二人を囲むように、大勢の騎士が現れた。
イバラは動揺していたが、煉は気にせず食事を続けていた。
いつも通りの煉を不快そうに見る隊長のような騎士が一歩前に出た。
「Aランク冒険者『炎魔』とその相方だな。我々に同行してもらおう」
「見てわかる通り、食事中。後にしてくれ」
「………………」
「れ、レンさん! お、怒ってますから、話くらい聞きましょうよ!」
「いきなりこんな人数で押しかけて理由もなく同行求めるとか、失礼にもほどがあるだろ。そんな奴の話を聞く必要なんてない」
煉がきっぱりと言い切ると、周囲の騎士たちから不穏な気配が漂い始めた。
様子を見守っていた他の客は関わらないように遠く離れていた。
「れれ、レンさん!! 穏便に! 平和的に解決しましょう!」
「と、仰せだが? その態度を改める気は……」
「なぜ我らが冒険者風情に謙らなければならない」
「な?」
「な? じゃないですっ!! レンさんが折れるところですよ! 今の私たちはただの観光客なんですから!」
「はぁ……とりあえず用件だけ話してくれ。手短にな」
変わらずの煉の態度に、騎士たちは今にも剣を抜きそうな雰囲気になった。
隊長の男が何とか抑え、簡潔に用件を伝える。
「我らが主、皇王陛下が貴様らに会いたがっておられる。故に今日、謁見する栄誉を賜った。本来であればありえんことだが、陛下の温情に感謝し、感涙に咽び泣くが良い」
「………………めんどくさ」
「な、ど、どうして、陛下が私たちに……」
煉の声はイバラによってかき消され、かろうじて騎士たちの耳に入ることはなかった。
「レンさん、さすがに断れませんよ」
「……しょうがない。行くかぁ……」
煉たちは騎士に連れられ、城まで足を運んだ。
そして、今に至る。
「皆の者、よくぞ我が求めに応じ、集まってくれた。王として感謝する。此度の招集だが、先日我が国が誇る魔術師たちがある凶兆を予見した。このミミールの地にて災厄が訪れると。詳細は誰も知らぬ。だが、その凶事のため、備えることとした。身分問わず、腕に自信のある者、知に長けた者、何でもよい。とにかく一芸に優れた者たちがこの場に集った。此度はその顔合わせということでこの場を設けさせてもらった。存分に親交を深めるが良い」
王の言葉が終わると同時に、一同はそれぞれ顔を見合わせた。
傭兵や冒険者は他者の力量を図っているが、その場にいた勇者たちは困惑した顔でキョロキョロとしていた。
煉とイバラも何も知らされずに参加させられていたため、何もせずその場に留まっていた。
「早く帰りたいんだが……」
「さすがにこの空気かんでは帰りにくいですね。もう少し我慢しましょう」
「――『炎魔』レン・アグニ君、だね?」
煉たちの側に一人の貴族が近づいてきた。
イバラは視界に入らないように煉の後ろに隠れ、煉は不機嫌そうな顔を隠さずにその男を見た。
少し長い茶髪を一つに束ね、きっちりとした礼装を纏い、いかにも真面目そうな雰囲気の男だった。
「まずは名乗ろう。私はセムドリック・エンキィ伯爵。愚息が迷惑をかけた」
「ああ、あいつの親か。それで、俺に何か用か?」
「少し君と話したいことがある。できれば二人がいいのだが、その少女をひとりにするわけにはいかないだろう。一緒で構わない。別室を用意してある。もちろん陛下の許可もいただいている。どうかな?」
そう言われ、煉は少し警戒したが、自分たちを害するような雰囲気を感じられなかった。
イバラを見ると、怯えながらも頷いたため、断るわけにもいかない。
「………わかった。その話とやらを聞かせてもらおう」
「ありがとう。有意義な時間になると約束するよ」
伯爵が踵を返し、歩き出した。
煉はイバラを連れそのあとをついていった。
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