第199話 三様
「……一人か」
荘厳な宮殿を前にして、俺はそう呟いた。
同じ扉を抜けたはずなのに、なぜ俺の側に二人の姿がいないのか。
不思議に思うのだが、今は考えていても仕方がない。
何があったとしても二人なら問題ないだろう。
これでも口には出さないが、二人のことはかなり信頼しているし認めてもいる。
一緒に旅をする仲間を信頼できないって言うのもどうかと思うが。
それはさておき、まずは目の前のことに集中しよう。
宮殿には濃密な魔力のみが充満し、人の気配など一切感知できない。
さらには自分の魔力でさえ知覚できないと来た。
「これじゃ、魔法は使えないな」
どういう原理かは不明だが、今は自分の中にある魔力すら感じられない。
何らかの結界が張られているのか、はたまたこの濃密な魔力が邪魔をしているのか。
魔法は使えずとも刀があれば何とかなるとは思う。
しかし、こうなるとイバラが少し心配だな。
こういう時のためにある程度の近接戦はできるようになれ、とは言っているが大丈夫だろうか。
「とまあ、そんなこと考えたってどうにもならないけどな。俺は俺でやるべきことをしよう」
思考を切り替えた俺は、漂う魔力の元凶をこの広い宮殿の中から探すことにした。
魔力感知ができないため、自分の足でしらみつぶしに探索するしかないのが面倒だ。
とりあえず宮殿の外を一回りしてみようと思い、歩き出した瞬間――。
「――クスッ」
誰かの笑い声が聞こえた。
周囲を見渡していても人の姿は影も形もない。
一体どこから――視線を感じ上を見上げる。
すると三階ほどの高さにある窓から、影がこちらを見ているのが見えた。
はっきりとした顔も体つきも見えなかったが、一瞬視線が交錯するとその影はぼんやりと宮殿内に消えてしまった。
自然と口角が吊り上がるのがわかる。
「……舐めやがって。絶対に見つけてやる」
いつでも戦闘に移行できるよう腰に佩いた刀に手を添え、俺は宮殿内へと足を踏み入れた。
◇◇◇
私の側に二人の姿はなかった。
雲の島に続いてまたしてもひとりぼっち。
こんな強大な魔力の中で一人になると、不安が押し寄せてくる。
自然とレンさんとアイトさんの姿を求めてしまう。
「……ダメダメ。一人でも何とかしなきゃ」
小さく呟き自分の心を奮い立たせる。
大きく深呼吸し頭を冷やした後、まずは状況確認から。
目の前には荘厳な宮殿。空間に充満する強大な魔力の影響か、自身の魔力が一切知覚できない。
あらかじめ杖を持っていてよかった。
この状況の中で私がやるべきことは、宮殿内の探索をすること、そしてレンさんの欲しがりそうな情報を集めること。
幸い人の気配はなく、勝手に入り込んでも怒られることはないだろう。
出来れば魔法書でも置いていてくれればいいのだが。
そう思った私はまず宮殿内の書庫へと向かったのだった。
◇◇◇
「……でっけぇー」
宮殿を見て最初に思い浮かんだ感想がこれだ。
自分の記憶に残っている実家の城の三倍は大きい。
まあ、古代都市と現代の小国の城を比べるなって話なわけだが。
それにしてもこの漂う魔力……濃密で強大なものだが不思議と不快とは思わない。
是非とも解明したいものだが、自分の魔力が感じられなければ魔道具を使用することもできず、解析すらできないのが悔やまれる。
「さすが、『破魔』って言うだけあるな。死界の主要部では魔法が使えなくなるとか、一体どんな結界を張っていることやら」
それでも、頭の中で出来る限り解析はするつもりだ。
実際の魔法陣でも見れるならそれはそれで。
とにかく、俺のやるべきことは見つかったな。
「この宮殿に張られた結界の解析、対処、再現。ここまで来たらそれくらいやってやる。古代文字だがなんだか知らんが、俺の魔法への愛を舐めるなよっ!」
力強く叫び、俺は気合を入れた。
空中庭園の謎はレンが解明してくれるはずだ。
なら俺は俺のやりたいようにやって、レンの支えになろう。
こんなところまで足を運んで成果無しってのは、納得いかないからな。
そう意気込んだ俺は、魔法陣を探すべくまずは宮殿の外周を見て回ることにした。
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