第198話 分断

 拠点へと戻る頃には、太陽は姿を隠し空は暗闇に包まれていた。

 三人はそれぞれ思い思いに休息を取り、英気を養った。

 その日は珍しく三人の間に会話はなく、静かな夜が過ぎていく。

 そして再び空に太陽が昇り始めた頃、言葉を交わすことなく三人は準備を終え集う。

 言葉にせずとも次に向かう先は理解しているのだ。


「……よし、行くか」


 煉の言葉を合図に三人はまた歩き始めた。

 向かった魔法陣は、空中にポツンと魔法陣が設置されているだけの浮遊島。

 その島の特徴は無重力であること。

 重力という概念が存在せず、自然と体が浮き上がってしまう。

 その現象に理解のない人間であれば、激しく動揺し慌てふためくのだろうが、ここには煉がいる。

 それだけで三人の心に不安はない。


「……俺の予想通りなら、行けると思うんだがな」

「ダメだったら他の道を探すしかないな。つっても、ほとんど探索した後だけどな」

「あとはあの……重力、でしたか? それのない浮遊島だけですね。あの島の魔法陣が宮殿へと繋がっていればいいのですが……」


 そして三人は魔法陣へと乗り、無重力の空間へと飛ばされる。

 島の内部へと着いた瞬間から、足が地面に触れることはなく常に浮いている状態となった。

 上手く姿勢制御ができず、アイトはその場でくるくると回っていた。


「うおっ!? と、止まらねぇ! た、助けてくれ、二人ともー!」

「ふ――ハハハ! それ、前来た時も見たぞ。遊んでないでちゃんと姿勢保てよー」

「できたらやってるっての!」

「アイトさん、落ち着いてください。地面と垂直になるように頭を上にして制止すれば大丈夫ですから」


 イバラはふらふらになりながらも、アイトへ助言を送る。

 アイトがイバラの言葉通りに姿勢を整えようとした時、煉が手に持っていた三つの水晶が勝手に浮かびあがった。

 そのまま光のない魔法陣へと吸い込まれていくと、突然島全体に重力が発生した。

 無重力ではなくなったことで、自然と浮いていた三人の体は落ちていく。


「――っと」

「ありがとうございます、レンさん」

「あぁぁぁ――いてっ」


 最初に着地した煉は、イバラに手を差し伸べゆっくりと地面に立たせる。

 その横で姿勢を崩したままだったアイトが背中から地面に落下してきた。

 そして何事もなかったかのように立ち上がり、煉へと詰め寄った。


「お前っ! イバラちゃんにだけ手を差し伸べるとはっ! 俺は無視かっ!?」

「いや、イバラの方が近かったし」

「大して変わらなかっただろ!? 別にイバラちゃんに優しくしてることに怒ってるんじゃないぞ。……俺にも、手を貸してほしかっただけだ!」

「男だろ? 少しは自分で何とかしなさいよ。あと、あんまり不甲斐ないとアリスに呆れられるぞ?」

「うぐっ――!?」


 痛いところを突かれたアイトは、それ以上何も言えなくなってしまった。

 少し拗ねている様子のアイトを放置し、煉はゆっくりと高度を下げている魔法陣へと目を向ける。

 魔法陣は、赤青緑の三色の光を放ち、その中心の三点に煉たちが集めてきた魔法陣が差し込まれていた。

 煉の推測通り、あの小さな水晶が魔法陣を起動させる鍵の役割を担っていたようだ。

 そして、地面にまで降りてきた魔法陣から、成人男性一人サイズの扉が出現した。


「おそらく、あの扉の先が宮殿だな」

「間違いないのですか?」

「なんとなくだが、かなりの魔力を感じる。この死界の中でこれだけの魔力を感じ取れるってことは相当だ。気を引き締めろよ」


 煉は二人にそう言う。

 特に、少し離れた場所で未だに拗ねた様子の男に向かって。


「……アイト」

「わかってるって。こっから先は油断しない」


 先ほどまでとは打って変わって真剣な眼差しを魔法陣へと向ける。

 煉はフッと笑い、扉に手を掛けた。


「それじゃ、この島の謎を解き明かすとしますか」


 緊張をほぐすようにそう告げ、煉は扉を開け中に入った。

 二人もそのあとに続き、扉の先へと向かった。



 ◇◇◇



 見上げるほどに大きな白亜の宮殿。

 いつも遠くから見ていた場所は、思っていたよりも大きく三人は圧倒されていた。

 それでもわかるのは、その空間に濃密な魔力が漂っていること。

 宮殿のどこかにこの魔力を放っている強者が存在する。

 そう悟った三人は気を引き締めた。

 しかし、問題が一つあった。


 ――――――近くに仲間がいない。


 同じ扉を潜り、同じ光景を目にしているのに、その場にはそれぞれ一人ずつしか姿がない。

 どうやら三人は、へと飛ばされてしまったようだ。

 三人は最終目的地にして、分断されてしまったのだった。







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