第36話 Sランク

「……戦うって、俺とあんたが?」

「それ以外に誰がいるっていうのさ。ほら、とっととやるよ。時間を無駄にするのは嫌いなんだ」


 付いてこいとだけ言って店の奥に入っていく。

 唐突な展開にため息を零し、仕方なくクレニユの後を追う。

 店の奥にある隠し階段を降りていくと、体育館くらいの広い空間があった。


「なんで家の地下にこんなのがあるんだよ……」

「もちろん武器の試しをするためにさ。自慢じゃないが、あたしの上客は結構な大物ばかりでね、そいつらのために模擬戦ができるくらいの広さが必要ってわけ」

「明らかに家の大きさと合っていないが」

「空間魔法の付与された魔道具で拡張しているのさ」

「なるほど……」


 それってかなり貴重なものではなかったですかね。

 何でもないように言っているが、国によっては国宝級の魔道具のはず。

 贅沢な使い方をしているもんだ。


「そんな細かいことはいいんだよ。ほら、さっさと準備しな」

「本当にいいのか?」

「これでもあたしは現役のSランク冒険者だ。小僧に心配される程じゃないよ」

「……マジかよ」


 なんでSランク冒険者が武器作って売ってんだよ。

 Sランク冒険者って大陸に数十人しかいないんだろ。

 そんな貴重な人材がこんなところで……。


「何考えてるか知らないが、冒険者ってのは基本自由なもんさ。誰にも指示されず思うがままに生きる。全て自分の責任でね。崇高な意志を持って冒険者やってる奴なんかそういないよ。あんただってそうだろ?」

「まあ、確かに……」

「国のためとか誰かを守るだとかしたいなら騎士にでもなればいいさ。あたしらは違う。生きるために戦い、生きるために守る。冒険者ってやつは自分勝手なんだよ。覚えておきな」


 さすがSランク冒険者。

 俺とは年季が違う。当たり前か。


「それじゃ、胸を借りるつもりで行こうかな」

「その前に一つ。あんた魔法使うだろ? 今回はそれは無しだ。武器はそこら辺にあるのを使いな」


 そう言われ、とりあえず近くにあった武器を見る。

 壁際に乱雑に置かれた武器の中から、刀に近い片手剣を手に取った。

 さすがに刀は置いてなかった。


「そんなんでいいのかい?」

「そんなんて……自分で作った武器だろ?」

「ここに置いてあるのはどれも失敗作だよ。とても冒険者が扱うものではない。わかるだろうよ」


 いや、わかりませんけど。

 正直刀以外の良し悪しとか全然。

 刀でさえそこまで詳しくないんだから。


「それならあんなのそれはどうなんだ? 自分の武器だろ、それ」

「当然じゃないか。これから戦うっていうのに手に馴染んだものを使わないバカはいないよ」

「え、理不尽じゃん」


 自分の得物を持っていないから買いに来たのに、拾った失敗作の武器を使って戦えとか。

 それにそっちは自分の得物じゃん。

 Sランク冒険者としてどうなのそれって。


「細かいことはいいんだよ。そらっ! ボケっとしてると死んじまうよ!!」


 合図もなしにクレニユは大槌を振り上げ迫ってきた。










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