第37話 腕試し

「――ほら、ほらぁ!! どうしたぁ!? 逃げ回っているだけなのかい!?」


 クレニユの猛攻に俺は苦戦していた。

 苦戦というか、圧倒的に不利な状況だった。

 魔法なしでは逃げ回るので精一杯だ。


「……っ! はっ、やすぎるだろ!?」


 クレニユの大槌を振り回すスピードがおかしい。

 辛うじて目で追えるくらいだ。

 それに一撃が重い。一発食らっただけで剣が砕ける。

 これがSランクの冒険者ということか。


「鍛え方が違うんだよ! 魔法に頼っているようじゃ落第だね。冒険者ならどんな状況にも対処できなければならない。それに……男なら根性見せてみなっ!!」

「――――ちっ!」


 気を抜くとすぐ目の前に現れる。

 そして高速の振り下ろしが迫っているという状況から抜け出せない。

 ギリギリで回避するが、砕けた地面の礫が掠り傷をつくる。


「そこっ! ボヤボヤしてると死んじまうよ!!」

「まずっ!?」


 避けた先ではすでにクレニユが構えていた。

 咄嗟にガードの構えを取るが、クレニユの豪快なスイングの前では無意味に等しい。直撃を受けた俺は勢いをそのまま壁に衝突した。

 頑強な壁には亀裂が走り、俺の体は乱雑に置かれていた失敗作の山に埋もれる。


「あんた、おかしな体してるんだねぇ。普通ならもっとボロボロになる筈なんだけど、そこらの魔獣より堅く感じたよ。そこら辺は気になるところだが、それ以外はてんでダメだね。拍子抜けだよ」


 クレニユの呆れたような声だけが聞こえる。


「ほら、立ちな。まだやれるだろう? これで終わりだって言うんなら尻尾巻いておうちに帰んな」

「がはっ! はぁ……はぁ……言いたい放題言いやがって」

「あたしの作る武器にふさわしいか見極めるためさ。あたしを納得させられないような男に、なんであたしが力を貸してやらなきゃならない。それに、あんたが特殊な魔法を使えるのはなんとなくわかるよ。これでもいろんなものを見て経験しているからね。だから、これはあたしからの親切心だと思って聞きな。あんたがその力に頼りきりでいる間は、あんたの目的は果たせない。何も成せないし、守ることなんてできない。まずはそれを理解した方がいい。あんたみたいなのに単なる同情で助けられても困るからね」


 そう言ってクレニユはイバラを見た。

 悔しさで唇を噛みしめる。奥歯が震えるのを感じる。

 言い返せないことがこんなに悔しいとは思わなかった。


「それで? あんたはいつまでそうしているつもりだい?」

「……うるせぇ。やってやるさ!」

「そうだよ。喋る力があるなら、まず立ち上がるのさ。まあ、それが蛮勇でないことを祈りたいところだけどね」

「吠え面かかせてやる」


 俺は武器も持たず、クレニユに向かって走りだした。








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