第35話 クレニユ

 一度宿に戻り、イバラを連れて俺は街の北端を目指していた。

 アリシアさんに聞いた場所は確かこの辺りだったような……。

 同じような家が並んでいるから見分けがつかない。

 すると……。


「――――ってぇな! 何しやがる!?」

「あんたみたいなのに売るもんはないよ。とっとと失せな」

「こっちは客だぞ! そんなことしていいのかよ!」

「構いやしないよ。あたしにだって客を選ぶ権利があるさ。あんたに物を売るのは御免だね」

「ふざけやがってこのアマ……。ああ、そうかよ! そっちがその気なら俺だっていらねぇよ! こんなおんぼろ店の武器なんて必要ないぜ!」


 そう言って冒険者の若い男は大股で去って行った。

 揉め事のようだが、どうやら穏便?に済んだみたいだ。

 というより、目的地が見つかったことにホッとした。


「――――それで、あんたらは何だい? 見せもんじゃないんだがねぇ」


 そうして店主だと思われる作業服を着た女性がこちらを見た。

 肩に大槌を担ぎ睨みつけるように見られ、イバラがかなり怯えている。

 その女性はとても強烈な美人で、かなり迫力があった。

 そして特徴的なのは耳。長いわけではないが尖がっていた。


「……エルフ?」

「残念だが、あたしは森人族エルフじゃないよ。土人族ノームさ」

「それは失礼した。初めて見たので勘違いしたみたいだ」

「ほう。森人族エルフ土人族ノームも見たことがないとは、珍しい小僧だね。それにその服……どうやら訳ありみたいだね。入っておいで。話くらいは聞いてやるさ」


 そう言ってノームの美女は店の中に入っていった。

 怯えるイバラを促し、俺たちも店の中に入る。

 店内はそこかしこに武器や防具が乱雑に敷き詰められていて、あまり綺麗とは言えなかった。

 しかし、それが異世界の武器店のような雰囲気を感じさせる。

 新鮮なものを感じ、気分が高揚しているのがわかる。


「それで、あんたたちは? 正直面倒事は御免だよ」

「俺はレン。こっちはイバラ。訳あってイバラは顔を見せられないけれど、そこは了承してほしい」

「そんなことはどうでもいいよ。それで? あんたたちは客なのかい?」

「ああ。アリシアさんの紹介でここを教えてもらった。あなたによろしくと言っていたが」

「アリシアの紹介かい。珍しいこともあるもんだね。あいつはよっぽどの何かを持っていないと、あたしに冒険者の紹介なんてしないのに。あんた、アリシアの奴にかなり気に入られているみたいだね」


 そう言って豪快に笑う美女。

 なるほど。アリシアさんの友人というのは間違っていないみたいだ。


「あたしはクレニユ。友人たちからはクレアと呼ばれているよ。あんたにそう呼ばせるかはまだ決めかねているけどね」

「アリシアさんの紹介というだけじゃダメなのか?」

「それじゃまだ足りない。あたしを納得させることができたなら、あんたにも武器を作ってやるし、クレアと呼んだってかまわない。その覚悟はあるかい?」

「何をさせるつもりだ?」

「それはあんたの返答次第だね」

「……そうか。わかった」

「おお、いいねぇ。即決できる男は嫌いじゃないよ」

「それで? 何をすればいいんだ?」

「簡単な話さ。――――あたしと戦ってもらう」


 そう言ってクレニユは不敵に笑った。







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