第230話 不意の再会
「グランドアーサー」は、魔獣の出現や巨大な渦潮の発生により何度か迂回を繰り返しつつも、予定より一日遅れで無事海洋都市リヴァイアへと到着した。
煉が元リヴァイア領主であるドナウリア侯爵の悪事を暴いてから、領主は変わり街はかつてよりもさらに活気あふれる街となっていた。
港には多くの商人が集い、屋台を開いて物を売り、商人同士での商談が盛んにおこなわれている。
船を降りたことで煉の受けた護衛依頼は完了となり、三人は報酬を受け取ると王女一行と別れ最初に宿へ向かった。
Sランク昇格試験受験者は、ギルド指定の宿を無償で与えられる。
中々の好待遇に、煉もご満悦だった。
それから三人はギルドへと向かった。
「一年ぶりだが、ここは変わらないな」
「ですね。この街に来たら昔のことを思いだすかと思ったのですが、意外と平気みたいです」
「過去を乗り越えたってことだな。強くなった証だ」
「実感してます。今なら……侯爵にも負ける気がしません」
いろいろな想いを抱えていたイバラも、過去を克服したことで笑みを浮かべる。
そうしてギルドの前で二人が笑い合っていると、アイトがぽつりと呟いた。
「……なんで顔隠してんだ?」
アイトの指摘通り、煉とイバラはフードを目深に被り周囲から顔が見えないようにしていた。
さらにクレアが作った煉のコートとイバラのローブには認識阻害の魔法がかけられている。
フードを被ることで周囲の注目から避けることもできるのだ。
「いや、やっぱり騒がれたくないし、試験までは静かにしていたいだろ?」
「アリシアさんへの挨拶をするだけですけれど、毎回ギルドに入るとレンさんは絡まれる傾向にあります。いくら有名になったとは言え、馬鹿な人たちが寄ってこないとは限らないので、念のためです」
「そ、そうか……」
今さらなのでは、と思うアイトだがそれを言葉にすることはなかった。
そして三人がいざギルドに入ろうとした時、突然真後ろから声がかけられた。
「――珍しい顔がいるもんだね。たまにはギルドに顔を出してみるもんだ」
『!?』
顔を隠しているはずなのに、どうしてバレたのか。
後ろを確認した煉は納得の表情を浮かべ、警戒を解いた。
剣を抜きかけているアイトを制し、ため息を吐いて後ろの人物に話しかける。
「気配を消して近寄ってくんな。街中じゃなかったら斬りかかるところだぞ」
「お久しぶりです、クレアさん!」
「元気そうで何より。それにしても随分と派手にやっているみたいじゃないか。あたしが渡した刀の調子はどうだい? あとで見てやるよ」
「うぐっ……」
煉はバツが悪そうに顔を逸らした。
それだけでクレアは何があったかを察し、底冷えするような笑みを浮かべた。
「自分の得物も大事にできないとは、これは灸をすえないといけないみたいじゃないか。それと――Aランク冒険者がこそこそと顔を隠してんじゃないよ!」
クレアにフードを引っぺがされ、煉は首根っこを掴まれギルド内に引きずり込まれる。
ギルド内の喧騒は一瞬にして止み、ざわめきが広がる。
急に静かになったギルドを不審に思い、受付からアリシアが顔を出した。
「あ、クレア。ようやく来たわね……って、レンさん!? ち、ちょっと、どういうこと!? 何してるの、あんた!?」
「この小僧には少しお仕置きが必要なのさ。アリシア、訓練場借りるよ」
それだけ言ってクレアはギルドの奥へずかずかと入っていく。
後ろからついてきたイバラが、アリシアに深く頭を下げクレアの後を追う。
「もう……勝手なんだから。レンさんもクレアも、ギルドマスターに呼ばれてるって分かっているのかしら」
盛大なため息を吐き、アリシアは他の受付嬢と仕事を代わり、ギルドマスターの部屋へと向かった。
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