第231話 Sランクと次期Sランク
ギルド併設の訓練場から、轟音が鳴り響く。
激しく揺れるギルドが今にも崩れそうで、何事かと冒険者たちが揺れの発生源へと向かう。
彼らが見たものは、本来訓練場で行われるべきものではない壮絶な殺し合いだった。
「――おまっ、ガチじゃねぇか! 少しは加減しやがれ!!」
「何言ってんだい! こんなもん、準備運動にもなりゃしないよ!!」
両手で巨大な槌を振り回すクレアと小太刀一本で立ち向かう煉。
互いの武器がぶつかり合う度、衝撃波が起こり建物を揺らす。
訓練場の床はひび割れ陥没し、壁には無数の斬撃痕が刻まれていた。
二人が戦い始めてから数分、たったそれだけの時間でギルドが管理している訓練場はボロボロになる。
高位の結界や保護の魔道具が備えられてはいるものの、Sランク以上の戦いに耐えられるほど丈夫ではない。
「『炎魔』だなんだと騒がれているくせに、こんなもんかい? 大したことないねぇ!」
「ちっ! 好き勝手言いやがって……上等だ。怪我しても知らねぇぞ」
「はははっ! 言うじゃないか! いいよ。あんたの力、見せてみな!」
クレアの魔力が両手の槌に注がれ、槌は徐々に大きくなっていく。
対して煉は、手に持つ小太刀と同じサイズの炎刀を作りだし、小太刀にも炎を纏わせた。
二人の意識は全て相手を圧倒することだけに集中していた。
「……花宮心明流双剣術〈百火繚――」
「〈覇岩砕――」
「――――――――そこまでだ!!」
魔力の込められた一喝が訓練場にいた全ての者の鼓膜を刺激した。
煉とクレアも衝突寸前、間一髪の寸止め状態で止まった。
声の主は怒りに身を震わせ、二人の下へと歩いていく。
「こんの……バカ者がっ!!!」
「いでっ!?」
「~~~~~っ!? 乙女の頭を殴るとはどういうこったい、ガイアス!?」
冒険者ギルドリヴァイア支部のギルドマスター、ガイアスは魔力で強化した拳で二人の頭を殴りつけた。
二人は涙目で、筋骨隆々、二メートル近い巨体の男を見上げる。
「なぁにが、乙女かっ! Sランクと次期Sランク候補のお前らが、許可もなく好き勝手に暴れやがって。ギルドが潰れたらどうするつもりだ!?」
「そんなもん知らないね! あたしは小僧の腕試しをしていただけさ」
「俺は引きずられただけだ。全責任はクレアにある」
「責任転嫁とはいい度胸じゃないか……まだ絞り足りないみたいだねぇ」
「転嫁も何も、全部あんたのせいだろうが! 人に罪を擦り付けんな!」
「だぁぁぁ! 静かにしろ、お前ら! とにかく、二人にはそれなりの処罰を与える。異論反論、質問も一切受け付けない! わかったな?」
「何だいそれ。横暴だ―」
「そうだそうだ。職権乱用だー」
ぶーぶーと、文句を垂れる二人にガイアスの怒りも限界を超えた。
魔力と殺気の込められた拳が、二人の顔をめがけ繰り出される。
紙一重で回避した二人の顔が強張り、冷汗が流れる。
「――わかったな?」
「「……はい」」
大人しくなった二人は、ガイアスに首根っこを掴まれ連行されていった。
連行される二人の後ろを、イバラとアイトはただ黙ってついていった。
その後、応接室にて四人が集められた理由をガイアスから告げられる。
「数日後、Sランク昇格試験の受験者たちの顔合わせがある。そこで今回の試験内容の説明もする。クレア、お前は監督役だ。ギルド側の運営として手伝ってもらうぞ。報酬を出すつもりだったが、今日の件で無しだ。タダ働きなのは自己責任だと割り切ってもらう。それと――くれぐれも問題を起こすなよ? いいか、絶対だからな!」
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