第232話 顔合わせ

 数日後、顔合わせ当日。

 煉はイバラとアイトを連れ、冒険者ギルドを訪れていた。

 この日は、さすがにソラは宿で留守番をさせている。

 そこにはAランク以上の冒険者たちが集う。スコルを従魔にしていることで、余計な火種を生んでしまうのではないかと危惧したのだ。

 ギルドに着くと、アリシアの案内でギルドにある一番広い大会議室に通される。

 今回のSランク昇格試験の受験者は五十人。その上、パーティの仲間を連れてくる者も多く、顔合わせに来るのはおよそ百人は超えるだろう。

 三人が来た時は、まだ十数人ほどしか来ていなかった。

 部屋中から鋭い視線が煉へと向けられる。

 受験者たちはさすがの落ち着きを見せているが、付き添いで来ている者たちは煉を見てざわつく。


「あれが……」

「たった一年足らずでAランク、空中庭園を攻略しSランク推薦を勝ち取ったスーパールーキー」

「……『炎魔』レン・アグニ」

「若いな……まだ子供じゃないか」


 聞こえた言葉に眉をひそめる。

 今までずっと気になっていたことを二人に訊ねた。


「……俺って、そんなに子供っぽいか? 一応、この世界じゃ成人してるはずなんだが」

「ま、まあ。一目では成人男性とは思えないほど若く見えますよ」

「他と比べれば、多少は幼く見えるな。つっても、成人して一年くらいだろ? そんなもんじゃねぇか?」


 この世界では十六を超えると成人として扱われる。

 日本と比べると少し早いが、とは言え数年しか変わらない。

 それだけ、日本人である煉が幼く見えるということだろう。

 身長もクラスの中では大きい方だったが、ここではむしろ少し低いくらいだ。

 そのせいか、より幼く見えてしまうらしい。


「ふむ……納得して諦めるべきか、成長期だと言い張り未来に期待するか……」

「何をブツブツと言っているのですか? だいぶ集まってきましたよ」


 イバラに言われ、煉は顔を上げ部屋を見渡した。

 入ってきた時よりも人が増え、部屋に用意された椅子が埋まりそうだった。

 まだ来ていない受験者は残り十人ほど。


「そう言えば、王女さんはまだ来ていないみたいだな」

「リル様は別で説明を受けるはずですよ。さすがに王女様がこのような場所に来るとは――」


 その時、部屋中から驚きの声が上がった。

 全員が一斉に立ち上がり、膝をついて頭を垂れる。

 三人だけ乗り遅れてしまった。

 何があったのかと入り口に目を向けると、三人は納得の表情を浮かべる。


「皆さん、楽になさってください。私は一受験者としてここにいます。ですので、どうぞそのように」


 入り口から堂々と入ってきたネプテュナス神王国第一王女リルマナンは、穏やかな声で告げた。

 そして、そのまま真っ直ぐに煉の近くへ歩いていき、端に座っている煉の隣の椅子へ腰かけた。


「お隣、失礼しますね♪」

「……どうぞ」


 どことなく嬉しそうな王女を怪訝な表情で見つめる煉。

 事情を尋ねようとしたとき、またしても入口付近が騒がしくなった。

 入ってきたのは、全身に派手な金の鎧を纏い腰に黄金のロングソードを佩いた金髪の青年。

 その青年の後ろには、パーティメンバーなのか五人の見目麗しい女性たち。

 一瞬にして部屋にいる男たちの嫉妬と興味の視線を集めた青年は、真っ直ぐに王女の下へと歩いてきた。

 そして大仰な一礼をして、突然名乗り始めた。


「これはこれは。『瑠璃の乙女』と名高いリルマナン姫ではございませんか。この度は、拝謁の栄に浴することができ、至上の喜びでございます。

 私は、クラン『剣聖会』所属Aランク冒険者、『黄金剣』ギル・ブレイダーと申します。以後お見知りおきを」


 そして、顔を上げ王女に向かってウインクをした。

 後ろに控えていたナナキが嫌悪感で顔を歪めている。

 ギルはちらりと視線を煉へと向けると鼻で笑い、まるで演技でもしているかのような手振りを加え、声高らかに煉に話しかけた。


「君が、噂の『炎魔』君だね? たった一年でAランクに達し、さらには誰も到達できなかったかの空中庭園を攻略したと……。

 ハハハハハ! 実に興味深い話だね。実際のところ、どうなのかな? 君は……いくら積んだのかな?」

「……あ゛?」


 空気は一変。

 一触即発の状態で二人は睨み合った。




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