第233話 顔合わせ ②
世界中から選ばれたAランクランク冒険者が一堂に会し、互いにライバルへ睨みを利かせている。
ただでさえ重苦しい空気が、二人のせいでさらに悪くなっていた。
「やれやれ……僕は優しいからね、こんなことで怒ったりなんてしないのさ。もう一度問おう。一体いくら積んだのかな?」
「何の話してんだ、あんた?」
「あくまで白を切るつもりかな。随分と育ちが悪いみたいだ。わかった、一から説明してあげよう。なぜ、僕がこう思ったのかをね。
君は、冒険者になってからまだ一年かそこらだと聞く。仮に、誰も持っていない特別なスキルやジョブを持っていたとしよう。それでも、たった半年でAランクに昇格、ましてや『
つまり、答えは一つ! 君が大金を積んでギルドマスターを買収したということさ!
さて、何か反論はあるかな?」
自信満々な様子で輝かしい笑みを浮かべる青年、ギル・ブレイダー。
的外れな推論を勝手に説明され、さすがの煉も呆れ果て言葉も出ないようだ。
煉が何も言わないことで、ギルは自分の推理が正しいと思い込み、さらに批判を続けた。
「この”神童”と謳われた僕でさえ、Aランク昇格まで五年もかかったんだ。それなのに僕よりも若い少年が半年? 明らかな不正に違いない。Aランクとして実績を積んだからこそ、高名な『剣聖会』に入会もできたんだ。聞きたいかい? 僕のこれまでの冒険譚を」
「いや、結構です。そろそろ始まるので、どうぞ席にお座りください」
煉が丁寧な敬語を使ったことで、後ろに控えていたイバラとアイトが目を見開き硬直。
近くで聞き耳を立てていたナナキも唖然としている。
「遠慮なんてしなくていいんだ。君みたいな金の力で成り上がった冒険者では経験できない数々の冒険をしてきたからね。是非とも聞いていきたまえよ」
話を聞かないギルにうんざりしてきた煉は、こっそり拳を握りしめた
薄っすらと漏れ出している炎が、煉の我慢の限界を示している。
イバラとアイトが煉を抑えようとあわあわし出した時、ギルドマスターのガイアスを部屋に入ってきた。
最高のタイミングで入ってきたガイアスを、まるで救世主でも現れたかのような目で見つめる二人。
状況を理解できないガイアスは、その視線を無視し一人目立っているギルへ着席を促した。
「お前、早く座れ。時間だから始めるが、全員揃って……一人足りないな。俺の招集に遅刻するとはいい度胸だ。そいつはしっか――」
「――――ちょぉぉぉぉぉぉぉぉっと、待ったぁぁぁぁぁぁぁ!!」
幼い子供のような大声が響き、転がり込むように部屋の中へ飛び込んでくる少女。
この世界では珍しい黒髪で黒い道着を纏った裸足の少女は、部屋の中央で華麗に立ち上がり、堂々と名乗りを上げた。
「ウチはコノハ! 『黒獅子』の一番弟子! お師匠に言われてきました! Sランク昇格試験の顔合わせ?ってここで間違いないですか?」
「間違いないから、とっとと座れ」
「はーい!」
元気よく返事をした少女――コノハは周囲を見渡し空いている椅子を探した。
王女の隣には誰も座ろうとしないため、そこに一つ席空いている。
コノハは王女の下へと近づき、人懐っこい笑みを浮かべ訊ねた。
「お姉さん、お隣座ってもいいですか?」
「ええ、構いませんよ。どうぞ」
「わーい♪ ありがとう!」
「待ちたまえ、少女よ。そこは僕が座ろうとしていた場所だ。他を当たってくれないかな」
「えー。座ろうとしてたってだけでしょ? まだ空いてるんだから、いいじゃん! それにお姉さんがいいよって言ってくれたから、ウチが座るんだもーん!」
ベーっと舌を出し、コノハは席についた。
ギルは悔し気な表情を浮かべ、渋々王女から正反対の場所にある椅子に座る。
コノハを観察していたイバラが煉に耳打ちした。
「レンさん、あの子って……」
「さっき自分で言ってたろ? 『黒獅子』の弟子だって。あらゆる武術の頂点と言われる『獅子王拳』の使い手であり――別名『神拳』」
「黒獅子」と聞いて反応を示した者は数人。
彼らは皆、あどけなさの奥に潜む獣のような威圧感を感じ取っていた。
退屈そうに思っていた試験が思いのほか楽しくなりそうだと、煉は思わず笑みを浮かべる。
全員が揃ったことでガイアスが簡潔に試験内容を説明した。
「今年の試験内容は一次と二次に分け、お前らを見極める。
一次試験は、リヴァイア周辺の魔獣討伐。最近は強力な魔獣も増えてきているため、丁度いいからお前らを使おうって話だ。お前らの冒険者としての実力を見せてもらおう。
次に二次試験。これは街にある大闘技場にて互いの力比べだ。シンプルかつ一番重要な要素、強くなければSランクとは認められない。
一次試験の開始は一週間後だ。以上、何か質問があればアリシアか担当の受付嬢に聞け。言っておくが、情報収集も冒険者の力量が示されるということを忘れるなよ」
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