第289話 間違えた

「――おい、本当にこっちで合ってんのか!?」

「大丈夫。この先に橋がある筈だから」


 次の場所へ向かおうと、三人は細い通路を奥に進んでいく。

 しかし、結晶の間より先は安全ではなかった。

 これまで通った道にはなかったはずの罠や、ぬるぬると動く触手で出来た魔獣に襲われることが多くなった。

 細い通路では逃げ場などなく、前方から迫る触手の魔獣と戦わざるを得ない状況で、アイトは手持ちの魔道具で何とか対応していた。

 思うように剣を振るうほど広くなく、イーリスを抜くこともできない。

 あらかじめ準備していた魔道具も、攻撃用に作られたものは少量でギリギリ持ちこたえている。

 本来であれば、イバラの魔法で殲滅しようと考えていたが、通路崩落の危険性と罠の対応もあり、イバラは常に三人を守る結界を張り続け、手一杯だった。


「……こんなことなら、もっと迎撃用の魔道具を作っておくべきだったな」

「そんなこと言ってないで、さっさとあれどうにかしてください! うねうねしてて気持ち悪いですっ!」

「そう言われてもなぁ……」

「イーリス抜いてくださいよ! 剣で斬れるはずですから!」

「こんな狭い通路じゃ、イーリスを振り回せねぇ。イバラちゃんは魔法使えないのか?」

「罠が多すぎるのでそちらに集中させてください!」


 煉を挟んで二人がお互いの状況を確認し合う。

 それで何かが変わるはずもなく、じりじりと触手魔獣がイバラの張った結界付近まで近づいてきた。


「ひぅ!」

「アイトさん、ビームとか出せないの?」

「あぁ? ビームってなんだ!?」


 ビームとは何か、懇切丁寧にアイトに説明する。

 イーリスが聖剣であることをあらかじめ聞いていた煉は、もしかしたらビームとか出せるのではないかと期待していた。


「ああ……それなら何とかできそうだが、それでどうにかなるのか?」

「大丈夫だと思う。逃げ場がないのは触手も一緒だし、真っ直ぐ放つだけだから通路にも影響はない」

「それなら――」


 アイトは腰に提げたイーリスを抜き、切っ先を触手魔獣に向け魔力を溜め始めた。

 魔力が上昇するごとに、イーリスが放つ光が徐々に大きくなっていく。


「できるだけ先の方まで届くように」

「わかった。ありったけもってけ!」


 溜め込んだ魔力をアイトは全力で解き放った。

 イーリスから放たれた極光が、通路の先にいた触手魔獣を呑み込みどこまでも伸びていく。

 そして光の柱は徐々に太くなっていく。


「あ、まずい。加減間違えた……」


 太くなっていった極光は、細い通路の壁を抉るように伸びていく。

 光が収まると、細かった通路は明らかに二倍近く広がっていた。

 そして三人は嫌な予感を感じ、大きくなっていく音に耳を澄ませた。


「これって……」

「もしかしなくても、やばいな」

「……すまん」


 どこからか何かが崩れるような音と激しい水流の音が三人の鼓膜をたたく。

 何が起こるかを予測した三人は、誰が言うまでもなく我先にと走り出した。


「とにかく走れ! 逃げろぉぉ!!」

「アイトさん、後でお説教ですからね!!」

「悪かった、反省してる。だから――勘弁してくれぇぇぇ!!」


 アイトの絶叫が洞窟内に響き渡る。

 煉たちは、脇目もふらずただただ逃げるように走り続けたのだった。





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