第288話 メモリークリスタルの仕組み
来た時と同じ道を通りイバラ達の下へと戻った煉は、無言で紅い結晶をイバラに渡した。
「え、あの、これは?」
「おそらく目的の結晶。違くても何かに使えるかもしれないから持ってて」
「はぁ……あの、レンさん。何かありました……?」
「少し記憶が戻っただけ。本当に、それだけだから……」
どこか含みのある言い方に、イバラは少し不安を覚えた。
記憶が戻ったと聞けば嬉しいはずなのだが、煉の表情からは悲しみと怒りを感じられる。
詳しいことを聞こうにも、そこに触れていいのか分からず戸惑っていた。
煉は二人の側を通りすぎ、小さく呟いた
「戻ろう。他の場所も行かないといけないし。この胸糞悪いゲームも早く終わらせよう」
◇◇◇
煉たち三人の様子を監視していた天使たち。
ラミエルは、百目から届けられる映像を見て、感心していた。
「まさか、あの結晶の下までたどり着くとは。中々やるなぁ」
「あのクリスタルは一体何なのですか? 映像越しでも魔力を感じますが」
映像にメモリークリスタルが映った瞬間、遠くにいる天使たちでさえ強力な魔力を感じていた。
ただ、その魔力から悪意や攻撃的な意志は感じられず、結晶自体にかけられた魔法がとても強力だっただけ。
人の記憶を奪い保存する魔法は、かなり高度な部類に入る。ミカエルはその残滓を感じ取っていた。
「あれは、かつてここを訪れた男が用意したものだ。いずれ来る戦のために、己の記憶を保管しておくとな。それと同時にある魔法も同時にかけていた」
「……ある魔法?」
「ああ。特定の人物にのみ影響を及ぼす限定魔法。その人物がこの地に足を踏み入れた瞬間発動するよう仕込んでいた。たしか……記憶を奪う魔法、だったような」
「記憶を? なぜそのようなことを。それに特定の人物とは誰なのですか?」
「詳しいことは私にもわからん。だが、魔法はしっかりと機能しているみたいだな。あの赤毛の少年にメモリークリスタルは反応している。つまり、あの結晶に触れたことで、少年は記憶の一部を取り戻したというわけだ」
確かに映像では、煉のみ結晶の下へ行くことができた。
それもわざわざ煉だけを迎え入れるかのように、仕掛けられた罠は反応せず勝手に道が作られていた。
何故そのような回りくどいことをするのか、ミカエルには理解できなかった。
奪った記憶をクリスタルに残し、煉がそこへ辿り着くと記憶が返還される。
その流れにどんな意味が込められているか考えたが、答えは出ない。
「お、映像が動いたぞ」
ラミエルの楽し気な声を聞き、視線を映像に戻す。
煉たちは元来た道を戻るのではなく、さらに奥へと進んでいた。
それを追うように、煉たちの背後を静かに百目が付いていく。
◇◇◇
先頭を歩く煉の表情は険しかった。
それは煉だけが気づいた記憶を辿る仕組み。
メモリークリスタルに保存された記憶を取り戻すことで、煉は自らの記憶を追体験していく。
これまで生きてきた足跡、受けてきた感傷、記憶の奥底に仕舞いこんだもの全てをもう一度経験しなければならない。
また、煉は別の誰かの記憶も受け取っていた。
イバラに聞いたこれまでの死界での話と照らし合わせると、その人物が誰なのか答えは簡単なものだった。
それと同時に、これが気分のいいものではないことを理解した。
「自分の記憶の追体験、か……一度受けた痛みをもう一度受けることになるとは、随分と悪趣味なことをさせる人だな――大賢者」
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