第167話 極光
抜け道を自力で生み出し迷宮を進んでいく煉たちの前に現れる魔獣は、次第に強さを増していく。
さらに、迷宮を進むたび道は狭くなり、罠の仕掛けは減少するが魔獣の出現数が大幅に増加していた。
その中でも特に危険なのが、今も煉たちの前にて道を塞いでいるディバイドフロッグだ。
Aランクの魔獣で、幾度も分裂を繰り返すこと無限に個体数を増やしていく。
そして迷宮特有の毒をも持っているため、分裂するたびに周囲に毒を撒き散らし数を増やす。
今もなお、大型犬サイズの巨大な紫色の蛙が、狭い通路を埋め尽くさんとしていた。
「うわっ。気持ち悪っ!」
「ちょっ、だ……ダメです……蛙のこの数は……無理です……っ!!」
イバラは決して前を見ないように、煉の背中にしがみつき目を固く瞑った。
イバラはカエルが苦手なのだ。
とても庇護欲をそそられる光景だが、今はそんな場合ではない。
「こいつらは剣じゃ増えるだけだしなぁ……」
「燃やせないのか?」
「こんな狭い通路で燃やしたら二人も無事じゃすまないだろ」
「確かに……。絶対に、やるなよ」
「……フリか?」
「なわけあるかっ!!」
アイトの強烈なツッコミが狭い通路の中に響く。
その声に合わせるかのように、ディバイドフロッグがカエルらしい鳴き声を上げた。
数が多く、さらに声を合わせ輪唱のごとく繰り返される。
あまりの騒がしさに三人は耳を塞いだ。
「うっせぇ!! アイトが大声出すからっ!」
「俺のせいかよ!」
「くそっ……めんどくせぇ。やっぱり燃やすか」
煉が右手に炎を宿したのを見たアイトは、慌ててそれを止める。
苛立ちの籠った深紅の目をギラギラとさせ、今にも通路ごと燃やしかねない煉を止め続けることはできない。
覚悟を決めたアイトは、一歩前に出た。
「――――俺がやる」
そう言ってアイトは、腰に下げたイーリスを抜く。
剣で斬りかかっても倒すことはできないことを理解している。
斬りかかるでもなく、ただ剣先を通路の先に向け、柄頭にある小さな穴に、ぴったりと合う赤い魔石を嵌めた。
すると剣身の根本、鍔の部分から七色の魔力光が発生し、イーリスを包み込んだ。
渦巻く七色の魔力光は徐々に輝きを増していき、力を溜め込んでいく。
膨れ上がった魔力光が限界を迎え、爆発寸前まで溜まった瞬間――。
「吹き飛べ! 〈
七色の極大レーザーが、通路内に居たディバイドフロッグを呑み込んだ。
眩い光が狭い通路を埋め尽くし、視界を遮る。
大きな音を立て何かが崩れる音と共に、光は収まった。
視界が元に戻った時、ディバイトフロッグは欠片も、毒さえも残さずに消滅した。
通路には螺旋の渦が通り抜けたような跡が刻まれている。
イーリスの意外な力に、煉とイバラは目を丸くした。
そしてそれを引き出したアイトの力量にも。
「おぉ~。いつの間にそんなことを」
「凄いですね、アイトさん!」
「いつまでも、何もできない俺じゃないってわけだ。まあ、消費魔力に見合う魔石がないとできないんだが……。ああ、貴重な魔石が……」
柄頭に嵌められていた魔石は、鮮やかだった色を失い砕け散った。
アイトにとっては魔道具作成に必要な魔石を消費する、諸刃の剣であった。
今回砕けた魔石も、時間があれば何かの魔道具の動力源になっていたかもしれないが、背に腹は代えられない。
しょぼくれるアイトの肩に二人の手が置かれた。
「魔石くらいいくらでも集めてやるさ。それよりも、やるじゃんか」
「そうです。魔石ならいつでもいいものを集めることができます。アイトさんのおかげでさらに先に進めそうですよ。それにほら、あれ」
イバラは通路の先の崩壊した壁の向こうを指さす。
そこには、これまで一度も目にすることのなかった、荘厳で重厚な扉。
その威容と漏れでる威圧的な魔力に、息を呑んだ。
「ようやく、ゴールが見えてきたのかもしれない。行くぞ!」
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