第18話 洞窟探索
※今話からしばらくの間、基本煉視点で話を進めていきます。
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エンペラーベアーを討伐したことで、本格的に谷を出ることにした。
この地の底でも俺の力が通用することがわかった。
ここよりもおっかないところなんて地上にはないだろう。
……いや、マジでそう思いたい。
「それにしても一人きりって言うのも、意外と寂しいもんだな」
思わず口からこぼれ出た言葉。
今まで特に気にすることのなかった寂しいという感情が、俺の心を占めている。
今までは美香が側にいたから、そう考える必要もなかったのかもしれない。
そう思うと無性に美香の無茶ぶりが恋しく感じてしまう。
こんなこと美香には絶対に言えないけど。
「てか、どこから上がればいいんだ?」
谷を出る。
それは間違いなくしなければならない。
だが、この谷の地図があるわけでもなく、ましてや崖を登っていくなんてことができるはずもない。
いくら人間やめたからってそこまで超人になったわけではない。
だから少しずつ上がっていく必要があるのだが……。
「手がかりと言えば洞窟の中だけだよなぁ……」
ということで。
とりあえず洞窟の中を探検することに決めた。
冒険者になったらこういう洞窟探索とかすることになるだろう。
もしかするとダンジョンなんてものがあるかもしれない。
あっちの世界よりも刺激的で意外とワクワクしているみたいだ。
感情を失くすことをやめてから、自分の中にある感情をより感じ取るようになった。
「これも成長って言っていいのかねぇ。俺の場合、ちょっと特殊だからな」
加虐的だった母親。
俺が泣くとうるさいと殴られ、笑うとむかつくと殴られる。
よく考えると理不尽にもほどがある。
反抗しなかった俺もどうかしていたのかも。
あんなんでも親だと認識していたってことか?
わざわざ感情抑え込んだりしてまで我慢する必要はなかったな。
いつか美香に言われたことを思い出した。
『我慢することも時には大事。でも、自分の意思を主張することはもっと大事。そうしないと、自分と言う存在がどんどん薄れてしまう。そんなつまらない存在に私は興味ない』
そう言えば、美香がこれ言ってたの小学生だったよな。
こんなこと言う小学生なんて美香くらいだろ。
相変わらず普通じゃない。
天才の考えることは分からん。
だが。
「その天才の存在に救われていたのも確かなことだな」
そんなことを想っていると、いつの間にか最近にも来た泉の前にいた。
前はここに来る途中で黒い牛さんをぶん殴った。
殴るのにも限界あるだろうから、いい加減何か得物が欲しいところだ。
男の子としては刀とか憧れる。
実際あっちで振ったことはあるから、俺にとっては慣れ親しんだものでもある。
とにかく少し休憩しよう。
また水を一口。ここの水は意外と美味しい。
どこかの海に繋がっているのかと考えたが、海水ではないし。
それなら地下水か、とも考えたがそれにしては綺麗すぎる気がする。
まあ、俺にはそんな知識ないから判断できないけど。
とにかく美味しいから気にしない。
「ブモォォォ!!」
「…………またか」
後方から大きな足音が聞こえた。
振り返ると俺が来た道から数体の黒い牛さんたちが迫ってきていた。
先頭にいるのは他より一回りくらい大きく、頭の三本角が冠のようだった。
「あれって、キングミノタウロスか?」
こいつも同じ本に書いてあった。
キングミノタウロス。
ミノタウロス種の頂点。体格や力も桁違い。危険度SS。
エンペラーベアーと同等。違いは得物を使うかどうか。
「…………いや、おかしいだろ。なんで両手にハルバードなんだよ。どこからそんなもん拾ってくるんだ!」
ミノタウロスが持つにしては手入れが行き届いているハルバード。
明らかに人間が使っていたような代物だった。
「ブモォォォ!!!」
「うわぁ……やる気満々じゃん」
体格差ありすぎるし、多対一だし、武器持ってるし。
俺、完全に不利だわ。
「まあ、いいや。これくらい越えられなかったら、神なんて夢のまた夢だからなぁ!」
自分に気合をいれて構える。
いざ、戦おうとするとなぜか高揚しているのがわかる。
それに合わせて体から炎が噴き出してくる。
未だに感情の上げ方は分からないが、好都合だ。
準備万端。よし――――そう思ったとき。
「キシャァァァァァァァァ!!」
後ろの泉から何かが飛び出してきた。
何かと言うか、シルエットで全て理解できた。
鮫だ。まごうことなき鮫。
五メートルはゆうに超える巨大な鮫はキングミノタウロスを丸呑みにした。
いきなりのことで動揺していた。
キングが一瞬にしてやられたことで、他の牛たちは一目散に逃げだしていった。
そして鮫の視線が俺を捉えた。
「……せめて一つだけ言わせてくれ。――――なんで鮫に足生えてんだよっ!!!」
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