第19話 分かれ道
「…………なんか気持ち悪いな」
いきなり泉から飛び出してきた四本足の巨大鮫。
しかもミノタウロスを丸呑みするくらいだから明らかに異常。
こんな魔獣は文献にも載っていなかった気がする。
「キシャァァァァァァァァ!!」
「次は俺の番てか? 冗談きついぜ、マジで……」
次から次へと魔獣が襲い掛かってくる。
ハイペースにもほどがあるだろう。
それに今は逃げ場もない。
来た道は目の前にいる鮫に塞がれている。
他に道はなく、あとは泉だけ。
その泉には他にも魔獣が生息しているだろう。
ていうかすでにヒレが見えている。おそらくこの鮫と同じやつ。
「どうにかして逃げ道を作らねぇと」
方法を考えていると、またしても鮫が叫んだ。
いや、鮫が叫ぶって言うのもおかしくないか?
と、そんなことを考えている余裕すらない。
先ほどと同じように泉から同じ鮫が俺の頭上に飛び出してきた。
「やばっ!」
横っ飛びで回避。
道を塞いでいた鮫は泉の中に戻って行った。
おそらく長時間は地上に居られないのか、泉の中からこちらの様子をうかがっている。
「となると、意外と何とかなるか」
二体とも泉に戻って行ったタイミングで来た道を戻ればいい。
だが、泉をよく見ると他にも鮫はいるみたいだ。
おそらく俺を逃がさないために一体ずつ交代して出て来るのかもしれない。
魔獣が仲間同士で連携している。
「頭いいな、こいつら。魔獣とは思えねぇ……――ん?」
泉の底に一瞬だが何かが見えた。
道のような、または入り口のような。
もしかすると先に進む道はこの泉の先にあるのだろうか。
そうなるとこの状況を切り抜けなければ、次に進めない。
「面倒だが…………やるしかないか」
覚悟を決めた。
しかし、こんな巨大な鮫を複数相手にどう戦えばいいのか。
殴れるか? いや、鮫肌だろう。俺の手がまずいことになる。
どうしたら――――良い事思いついた。
よし。とりあえず地上に出てきている鮫を泉に帰すところから始めよう。
さっきみたいに何か合図がある筈。タイミングさえ合えば……。
「キシャァァァァァァァァ!」
「今っ!」
地上の鮫が叫んだと同時に泉に向かって走ってくる。
それに合わせ泉からまた一体の鮫が飛び出した。
頭上から丸呑みにしようとしてくる。
ワンパターンしかないなら対応は簡単だ。
「オラァッ!!」
足に炎を纏わせ、鮫の横っ面に回し蹴りをお見舞いする。
完璧だ。イメージ通り。
飛び出してきた鮫はそのまま泉に強制送還。
これで地上の鮫はいなくなった。
心置きなく目的を果たせる。
泉の近くでしゃがみ右手を浸ける。
「炎の地獄を我が手に。〈
静かにそう告げる。
すると泉が手を浸けている場所から徐々に赤く染まっていく。
そして段々と水位が下がっていき、泉の水は全て蒸発していった。
泉の中にいた魔物は全て骨も残らず溶けていた。
いや~、便利だわ。水はなくなったし魔獣も全部討伐完了。
一石二鳥とはまさにこの事。
「お。やっぱり道がある。これで正解だったわけだ」
意外と水位があったようで、地面までかなりの高さがある。
まあ、これ以上の高さから落ちてきたのだ。
気にすることなく飛び降りた。
「ん? 道が二つ…………?」
地面に降りると、上からでは見えなかった道が見えた。
上からでも見えていたのは上に向かう道。
階段ではなくスロープのような坂。かなり急な角度を登っていく。
そしてもう一つ。
なぜか下に進む階段。
俺がいたところは谷底だったはず。
これ以上下はないと思っていたが、まだこの下があるみたいだ。
「さて、どっちに行くか……」
普通に考えれば上に向かえば谷を出られるのは間違いない。
だが、なぜか無性に階段が気になってしまう。
下に何があるのか見たいという好奇心が心を埋め尽くしている。
「今までの俺なら、迷うことなく上に行くんだが。これまでとは違う生き方をするって決めたからな。これからは、心の赴くままに」
そう決意した俺は、階段を下って行った。
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