第20話 道の先は

 今、自分がどれだけ歩いたのかわからない。

 何時間経ったのだろう。

 何処にいるのかさえ曖昧だ。

 それほど、この道は複雑すぎた。


 下へ進んだと思ったら上へ。

 右に曲がったと思ったら左へ。

 かと思いきやひたすら真っ直ぐ進んだこともあったっけ。

 そんなことが何十何百と続けばわからなくなるのも当然か。

 何よりも精神的に参ってきた。


 道の途中にはもちろん魔獣もいた。

 ミノタウロスだけでなく火蜥蜴やラミアなど多数。

 そのため警戒を怠ることもなかった。


「さすがに疲れてきた……あとどれくらい進めばいいんだよ」


「――――!!」


 前方からおびただしい数の足音が聞こえてきた。

 これには聞き覚えがある。


「またか……」


 おそらくデスラットの群れだ。

 特に強い魔獣ではないが、数が多い。

 放っておくと万を超えるそうだ。

 しかもネズミのくせに猫と同じくらいの大きさだ。

 地上では見つけたら即駆除しなければならない、と文献に書いてあった。

 個体では危険度Cだが、群れの数によってはSを超えることもある。

 つい最近もデスラットの行進に遭遇したばかりだというのに。

 足音からこの前のより倍はいる。


「はぁ……めんどくせぇ」


 おもむろに床に手を付け、最近考えた技を使う。

 こうして歩き回っている間にいろいろと力の使い方を練習していたのだ。

 自由度が高いため、自分の想像性が重要となってくる。


「まとめて燃えろ。〈焔の間フレアスペース〉」


 俺が手を付けた床から熱が伝わり、その熱は壁や天井にまで浸透していく。

 じわじわと温度が上昇し、ある一定の高さになると四方の壁から炎が噴き出す。

 この技は前方の通路の壁全てに熱が伝わる。

 デスラットのような数の多い雑魚を、まとめて消すにはちょうどいい。


「ほい。しゅ~りょ~」


 こうして時々魔獣を相手にしなければならないのが面倒くさい。

 せめてこんな時くらい魔獣とか出てこないでほしい。

 ため息を吐いた俺は、とにかく道なりに進んだ。

 そして――。



 ◇◇◇




「ここがゴールか……?」


 目の前には重厚で巨大な扉があった。

 こういう扉は俗にいうダンジョンのボス部屋みたいなものだろう。

 そう捉えて構わないよな。

 これで何もありませんでしたー、とか最悪だからな。


「まあなんにしてもここを避けるっていう選択肢はないわけで。さぁて、鬼が出るか蛇が出るか」


 扉に両手をつき力いっぱい押す。

 重すぎて動かないということはなく、ギギギという音を立て少しずつ開いた。

 人一人通れそうなくらい開けたところで中に入る。

 中はかなり広く天井も高い。

 真っ暗で何も見えないため、炎で周囲を照らし確認した。

 そして、俺が中に入ったことで扉は勝手に閉まる。

 マジでダンジョンみたいじゃん。

 もしかしてここってそうなの?

 と、疑問に思っている余裕はなかった。


「アァ――――!!」


 甲高い女の叫び声が聞こえ、思わず耳を塞ぐ。

 突如周囲の壁に明かりが灯り、部屋が一気に明るくなる。

 中央には巨大な魔法陣があり怪しく光を放っていた。

 その光の向こう側には人間用の扉を見つけた。

 あれが先に繋がっているのだと確信した。

 が、まずはやらないといけないことがあるみたいだ。


「アァ――――――――――!!!!」


 同じように甲高い叫びが部屋中に響き渡る。

 そして魔法陣から巨大な何かが出現した。

 上半身は女、下半身は蛇。背には大きな漆黒の翼。紫色の瞳が光を放ち、髪の一本一本が蛇の頭をしていた。

 見上げるほど大きなは、かつて本で見た神話の怪物そのものだった。


「…………ゴルゴ―ン」


「アァ――――!!」


 ゴルゴ―ンの叫びが響くと同時に俺の視界は光に包まれた――。










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