第17話 因縁
「んー……こんなもんか」
ひとりで唸っていた煉はおもむろに立ち上がった。
サタンの日記を見つけてから、憤怒の力を使いこなすため洞窟の中でずっと修行していた。
洞窟の中では時間の感覚がわからない煉は、とりあえず食事と睡眠の回数だけを記録してなんとなくで把握するようにした。
おそらく契約後に目覚めてから十日程度。
その程度の時間でマスターできるとは煉も思っていない。
基本的な能力の行使だけはできるようになった。
「とは言え、未だに感情のコントロールが効かないんだよなぁ」
これまで感情を消すことだけだったのが、今度は感情の強さによって能力も変化する。
そのためこれまで以上に感情を表に出すことにしたのだ。
しかし、それはあまりうまくいったとは言えない。
今までは失くすか、一定の波でコントロールしていた感情をいきなり昂らせるなど、煉にとっては困難なことだった。
「とにかく……まずは因縁を片付けなきゃな」
そう言って煉は洞窟の外に向かった。
もちろん煉が狙っているのは一つ。
「グォォォォォ!!」
「やっぱりお前だけは倒していかないとだよな!」
エンペラーベア―。
一番最初に煉を襲ってきた魔獣。
煉は谷を出るための最初の壁としてエンペラーベア―を選んだ。
「グォォォォォ!!」
「――っ!」
エンペラーベア―が煉に向かって腕を振り下ろす。
その動きだけでも、到底視認できるものではなかった。
しかし、煉は両手を上げ、受け止めた。
地面がひび割れるほどの衝撃に煉は苦悶の声を漏らす。
だが、決して膝をつくことはなかった。
不敵に笑い、真っ直ぐエンペラーベアーに視線をぶつける。
「……悪いな。こんなところで立ち止まっているわけにもいかないんだ。なんせ……神を殺す契約を交わしちまったからな。だから俺は――――お前を越えていく!」
突如煉の体から炎が噴き出す。
煉の髪と同じ深紅の炎。
煉の意思を表すかのように強く、紅く燃え上がる。
エンペラーベア―はたじろぎ恐怖を感じたのか、じりじりと後退していく。
そして恐怖を振り払うために雄叫びをあげ、突進してくる。
「グォォォォォォォォォォ!!!」
「燃え上がれ〈
煉の前に大きな炎の壁が現出した。
炎壁にエンペラーベア―が頭から飛び込んだ。
周囲には焼け焦げた匂いが充満し、エンペラーベア―は苦しそうに頭を押さえ絶叫する。
煉は隙だらけの腹に狙いをつけて拳を握る。
「爆ぜろ〈
パァン! という音が鳴り響き、エンペラーベアーの目から生気が失われていく。
エンペラーベアーの腹には風穴があいていた。
即死であるということが一目瞭然だった。
こうして煉は一つ壁を超えることができた。
そして煉は静かに拳を突き上げた。
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