第140話 魔将軍

 突然広場に悲鳴が響き渡り、魔族たちは槍を構え周囲を見渡した。

 しかし、目に見える範囲に人の姿はない。

 警戒を解かず緊張感の漂う中、悲鳴は段々と近づいてくる。

 ふと一人の魔族は空を見上げたが、時すでに遅し。

 空から降ってくる煉に、魔族たちは対応することができなかった。

 空中で煉は叫び続けるアイトを離し、炎に包まれた両腕で転移魔道具の上に着地した。


「〈炎波〉!」


 煉を中心に地面から炎の波が発生し、魔族たちを呑みこんでいく。

 魔族たちの悲鳴が聞こえる中、煉は魔道具の側に立ち降ってくるアイトをキャッチした。

 半泣き状態のアイトを地面に降ろし、軽く頭を叩き正気に戻す。


「ほら。解析頼むぞ」

「……絶対に……絶対に今度泣かすからなっ!!」

「はいはい。やれるもんならな~」


 アイトの言葉を軽く聞き流し、炎から抜け出した魔族と相対する。

 魔族の顔には奇襲による動揺と、不意を突かれたことへの怒りが浮かび上がっていた。


「貴様、何者だ!?」

「不意打ちとは卑怯者め! だが、あの程度の魔法で我らに傷を付けることなど不可能。せっかくの機を逃したようだな」

「バカか。あの程度でやられてたら拍子抜けだ。ほら、かかってこいよ。魔族の力がどんなものか見せてみろ」


 煉は人差し指を立て魔族たちを挑発した。

 青筋を立て、怒りを露わにした魔族たちは連携も何も考えず、ただ槍を持って煉へと突撃を始めた。

 突き出される槍を躱しつつ、アイトが解析中の魔道具から距離を取っていく。

 しばらく避け続けていると、槍を振るう魔族の顔に疲労の色が見え始めた。


「くっ! 当たらないだと!?」

「三人がかりでこれか……つまらないな、お前ら。もういいや」


 退屈そうにあくびを漏らした煉は、軽く右腕を振るった。

 すると煉の頭上に、螺旋状に渦巻く一メートルほどの炎槍が数百単位で出現した。

 圧倒的な魔法の技量に、魔族たちは恐怖に顔をこわばらせる。


「ひぃっ!」

「あとでお仲間も送ってやるよ。じゃあな」


 そう言って煉は、魔族よりも凶悪な笑みを浮かべる。

 そして右腕を振り下ろすと、数百を超える炎槍が、背を向けて逃げる魔族に向かって打ち出された。

 大量の炎槍から逃れることはできず、体を貫かれた魔族は追撃により炎上で灰すら残さず燃え上がった。

 つまらなそうにため息を吐いた煉は、アイトの下へと戻った。


「どうだ?」

「……持ち帰ってもっとゆっくり見たい。こんな革新的な機能があったなんて」

「そうですか。アイテムボックスに入れとくから、続きは帰ってからな」


 そうして煉は魔道具に手を翳し、アイテムボックスに仕舞う。

 これでひと段落したと、アイトは息を吐いた。


「――いつまで隠れてるつもりだ? お仲間なら先に行ったが」

「え……まだいるの?」

「当たり前だろ。あんな雑魚だけでここまで来れるかっての」


 煉は広場の中心に聳え立つ巨木を見上げていた。

 一番近い枝でさえ、数十メートルは上空にある。

 上空に漂う霧の影響で、かろうじて枝のシルエットが見えるだけだった。

 アイトも同じように巨木を見上げていると、枝から何かが飛んだ影が見えた。

 その影は一直線二人の下へと落ちてくる。

 徐々に勢いを増していく落下物。アイトは逃げるように巨木から距離を取った。

 そのアイトの側には、いつの間にか刀を抜いた煉と長杖に乗って宙に浮いているイバラの姿が。


「えっ? イバラちゃんいつの間に……と言うか、それ何?」

「簡単に言えば、魔法の応用です。レンさん、上で見張っていましたがあの魔族は特に何かするわけでもなく、ただ見ているだけでした」

「そうか。魔族って仲間意識とかそういうのは無さそうだな」

「――――然り。敵に背を向けるような弱者なぞ、恥そのもの。我らが魔王様にお仕えする資格なし」


 コツコツ、と足音を立て煉たちの下へと近づいてくる。

 先ほど煉が倒した魔族よりも一回り大きい体躯、自分と同じ長さの槍を持ち、蝙蝠の翼を広げた魔族。

 禍々しい魔力を放ち、威圧感を纏ったその姿は、圧倒的な強者のそれ。

 先ほど転移していったどの魔族よりも強い、と煉は感じた。


「貴様のその力……我らが崇める七神の一柱、大悪魔サタン様の御力であるな」

「…………だったらどうした?」

「魔王アザゼル様の名のもとに、その力、返していただこう」

「お断りだ。奪うってんなら力ずくでかかってきな」


 先ほどと同じように煉は挑発した。

 相対する魔族はさらに濃い魔力を放ち、煉に向け槍を構えた。


「良かろう。我が名は魔将軍パイモン! 我が魔槍の神髄、その身に叩き込むがいい!!」




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