第141話 vs魔将軍
イバラとアイトの目の前では、壮絶な殺し合いが繰り広げられていた。
殴り蹴り、刀と槍を交えては離れ、魔法を撃ち合う。
どうにか煉の支援をしようとも、入る隙も無く呆然と立ち尽くしていた二人。
いや、イバラは感応魔法により、煉の強化をしているため、実際にはアイト一人が何もできずにいた。
アイトの胸中には遣る瀬無さが渦巻いている。
「…………記憶を取り戻したって、俺に出来ることなんてなかった……」
思わず零れた言葉が、アイトの心を曇らせる。
「…………殺し合いをしてるのに、どうしてあんなに笑えるんだ……?」
「純粋に楽しんでいるんです。生死を懸けた戦いを。自分の力を存分に揮うことができる相手はそういません。いつも退屈そうにしていたレンさんの最大の楽しみなんですよ」
「死ぬかもしれないっていうのに……」
「死と隣り合わせなほど、生きている実感が湧くって……。どこか壊れているんですよ、レンさんは。だからこそ、私たちが側で支えていく必要があるんです。これ以上レンさんが壊れてしまわないように。今は……大して力になれなくても」
イバラの覚悟の宿った紫紺の瞳がアイトを貫く。
そしてアイトは自嘲気味に笑った。
「…………イバラちゃんは強いな」
「まだまだです。私一人では足りません。アイトさんにも手伝ってもらいますからね」
「ああ……俺も、強くなるさ……」
アイトは目を逸らすことなく、煉の戦いを見守っていた。
◇◇◇
「――――ふっ!」
「――――はぁっ!!」
何度目かもわからない、刀と槍の鍔迫り合い。
ぶつかり合う魔力が火花を散らす。
「ふははっ。良いなぁ。我と相対し、ここまで生き延びた者はそうおらぬぞ」
「その余裕そうな顔に腹が立つ」
「良い。殺し合いの最中に笑みを浮かべる気概。実に我好みである。ここで殺すのが惜しいほどに。かの勇者なぞとは比べ物にならぬ」
「…………やっぱりあれは勇者か。どうして魔族が勇者と共にいる?」
「それを貴様が知る必要は、ないっ!」
力ずくで煉を押し返し、パイモンは槍の石突で地面を叩いた。
するとパイモンを中心に魔法陣が広がる。
青い光を放つ魔法陣からは、黒い霧が立ち込めてきた。
「快楽の霧に包まれ、その身に破滅を。〈幻霧享楽園〉」
地面に刻まれた魔法陣の上にいた煉とパイモンを黒い霧のドームが包み込む。
一瞬にして視界が暗転した煉は、どうにか抜け出そうと霧の中を駆け回る。
しかし、不思議なことに走っているという感覚すらなかった。
そしてふわふわとした感覚に、煉は奇妙な気持ちよさを感じていた。
そのせいか頭が回らず、全身の力が抜け、手に持っている刀を落としてしまう。
『貴様の体を快楽が襲う。思考せず、ただ快楽に身を委ねるがいい。心地よさを感じたまま、死を与えてやろう』
コツコツ、と近づいてくる足音だけが耳に届く。
その足音にすら、快感を覚えてしまう。
徐々に迫りくる死を前に、煉は――。
「……これは憤怒の証明、我が敵を焼き払う罪深き宝具なり。顕現せよ『紅椿』」
生存本能のみで、大罪宝具を顕現させた。
顕現に伴い、溢れだした炎が黒い霧も魔法陣も全てを焼き尽くした。
再び視界がクリアになった煉は、頭を振り気を持ち直した。
「…………危ねぇ。なんだよさっきの。今思うとめっちゃ気持ち悪いじゃねぇか! うわっ、鳥肌立ってきた」
「くっ! 大人しくして居れば良いものをっ! しかし、何だその大剣は!? 我の預かり知らぬ神の御力か!」
煉の意志により形を変える『紅椿』は、今回本能で大剣として顕現したのである。
未だに謎の多い大罪宝具だが、パイモンさえ知らないみたいだ。
そのパイモンの顔には、これまでなかった焦りが見て取れた。
煉は不敵な笑みを浮かべ、大剣を構えた。
「はんっ! お前は知らなくて良いさ。ここで……終わりにしてやるからな!!」
「戯言を! 我らが魔王様の計画の妨げになる恐れがある。貴様は、ここで始末する! 〈魔槍召命〉!」
対するパイモンも、新たに魔短槍を出現させ、二振りの槍を構え応戦。
煉とパイモンの殺し合いは第二ラウンドを迎え、さらに激しさを増した――。
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