第139話 魔族と魔道具
煉たちは広場に入らず、近くの大きな木の陰に隠れ様子を窺っていた。
魔族たちは特に何かをしているわけではなく、ただ設置されている魔道具を守っているようだ。
魔道具の効果も分からず闇雲に飛び出すのは得策ではない。
そう考え、遠くからアイトに魔道具の観察をしてもらっているのだった。
「ダメだな。やっぱり遠すぎる。もっと近くで見たい」
「やっぱりか。無策で突っ込むのもなぁ……」
「設置型で魔力を発しているんだ……想像できるのは結界とか。あとは何らかの効果を齎す領域の構築。最近なんかじゃ設置型の転移魔道具も作られるようになったとか」
「ミユが言ってたな。精霊樹を守る聖域が侵食されているって。もしかするとあの魔道具によるものかもな」
煉はミユの言葉を思い出しながら、ぼんやりと眺めていた。
すると煉たちとは別の茂みから数人の男が広場へと足を踏み入れた。
その内の数人は魔族だということがわかる。
魔道具を守護している魔族と同じ装備をしていた。
ただ一人、黄金に輝く鎧を纏った金髪の男。横顔しか確認できなかったが純粋な人族である。
なぜ人間が魔族と共に行動しているのか、という疑問よりも煉は他に違和感を感じた。
「あの金髪……魔力が普通の奴と違う」
「違うってどういう」
「いや、何か神聖な感じが……まるで勇者みたいな――」
そう思い至った煉は、まさかとその金髪の男を再度確認した。
自分の頭に残っている記憶を掘り起こし、姿を思い浮かべる。
はっきりとは思い出せないが、背格好は同じであった。
茂みから少し体を乗り出した瞬間、唐突にその男が煉の方へと顔を向けた。
間一髪のところで身を潜め、ギリギリ姿は見られなかったが煉の心臓は激しく鼓動していた。
息を止め、気配を殺し男の視線が逸れるのを待った。
小さくだが、煉たちの耳に声が届いた。
「何かあったか?」
「いや、気のせいだろ。行こうぜ」
「ああ。俺たちは魔王様へと報告に向かわねばならぬからな。魔王様を待たせるわけにはいかん」
魔族たちは巨木の根本、魔道具の側まで歩いて行った。
煉は再び顔を上げ、魔族たちを観察する。
何かを話し、魔道具を守護していた魔族たちは、金髪の男に対しても敬礼していた。
そして魔道具を弄り始めた。
すると、黒い魔力が可視化され、扉のような形へと変化した。
隣でアイトが驚愕の声を上げる。
「転移の魔道具!? どうして魔族がそんなものを!?」
「どういうことだ?」
「そもそも魔族が魔道具を使っていること自体おかしいんだ。魔族に魔道具を作る技術はない。基本的に人間をこき使うこともしないし、自分たちの力で全てを為す。それが魔族だ。だから、魔道具は人間の専売特許のような物なんだ」
「なるほどな。それならあいつの正体も確定だ」
扉を潜って消えた魔族たち。
共に行動していた人間の男は、まさしく煉の記憶にうっすらと残っていた姿と同一人物だと確信した。
「マルドゥク神帝国で召喚された『勇者』――――綺羅阪天馬」
「それってレンと同じ世界の……!?」
「どうして人間の勇者が魔族と!?」
イバラの疑問は煉にも分からない。
どうして勇者が魔族と行動を共にしているのか。
だが、想像することはできた。
以前出会った元クラスメイト達。彼らは勇者と対立関係にあったという。
二分された勇者たちは、城に残った「勇者」の天馬と国を出て冒険者になった神谷、そのどちらかに付いた。
そして天馬は自分の目的を達成するためならば手段を選ばないことを煉は知っている。
自分の力と国を売って魔族に取り入ったということも考えられる。
「まあ、今やることは決まったな」
「ですね。すぐに終わらせてミユさんの下へ向かいましょう」
「へっ? お、お二人さん、何を……?」
アイトがオドオドした様子で問いかける。
煉は準備運動を始め、イバラは長杖を構え魔法を紡いだ。
そしてイバラが目で合図をすると、煉は自分の足に蒼い炎を纏わせた。
アイトの襟をつかみ、ニヤッと笑う。
「決まってるだろ?」
「嫌な予感……」
「――――悪いことする奴にはお仕置きだ!」
アイトを掴んだまま、煉は木の陰から勢いよく飛び出した。
空高く飛び上がった煉とアイト。
アイトの悲鳴が空しく響き渡った……。
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