第218話 再びあの都市へ

「ぅんっ……ここは……?」


 目が覚めると見覚えのない天井だった。

 そんな物語のようなことがあるわけ……なかった。


 目を覚まして最初に見たのはここ最近見慣れた天井。

 イザナミで借りている宿の一室だった。

 ぼんやりとする頭で、何があったのかを思い起こす。

 スコルと魔獣契約の魔法を結んだことまでは覚えている。

 そのあと私は……。


「――起きたか」


 私が使っているベッド脇から声がした。

 視線を向けると、楽しそうに笑うレンさんがいた。

 座っているレンさんの足元に見慣れない大きな毛玉が転がっている。

 何だろうと思ってじっと見ていると、毛玉がピクリと動き中心から狼の顔が現れた。

 そこで私は毛玉の正体を知る。


「……スコル?」


 私が小さく呟くと、スコルは不機嫌そうに吼える。

 わけも分からず首を傾げていると、レンさんが助け舟を出してくれた。


「魔獣契約は成功したのは覚えているだろう。無我夢中で覚えていないかもしれないが、イバラが名前を付けてやったんだ。呼んでやらないと可哀想だぞ」

「……ソラ?」


 確かに名付けまでしたことを覚えている。

 その名で呼ぶと、嬉しそうに尻尾を振り回しベッドの周囲をグルグルと動き回る。

 ……可愛い。

 いや、それよりも気になることがあった。


「……小さくないですか?」


 森で見た王者の風格を纏っていたソラの体長は軽く三メートルは越えていたはずだ。

 それが今は大型犬ほどの大きさになっている。

 それでもダークグレーの美しい毛並みと狼王の精悍な顔つきは変わっていない。


「街に入る直前、急に小さくなったんだ。俺もどうしてかは知らないがまあ小さくなれるって言うなら便利ではあるだろ。これくらいの大きさならペットの狼と言っても違和感はないし」

「確かにそうですけど……」


 私が体を起こすと、ソラがベッドに顔を乗せ何かをねだるような目で見つめてくる。

 もしかして撫でてほしいのだろうか。

 そう思い、フワフワした毛並みの頭を撫でてあげると気持ちよさそうに目を細める。

 こうしていると、本当にペットみたいだ。

 夢中で撫でていると、ソラはベッドに飛び乗りお腹を見せてきた。

 わしゃわしゃとお腹を撫でる。

 ヴ~……と気持ちよさそうな鳴き声を出していると、もう完全に犬だった。


「ふふっ……ふふふ。ふわっふわで気持ちぃ……」


 今の私の顔は酷いことになっているだろう。

 しかし、抑えきれず私はそのままソラのふわふわな体に抱き着いた。

 気持ち良すぎてこのまま眠ってしまいそうになる……――ハッ!

 レンさんがいるのだった……!

 失念していた。こんなところを見られてしまうなんて恥ずかしい……。

 コホンッ、と咳払いをして何事もなかったかのようにレンさんへ向き直る。


「大森林から運んでくださったのですね。ありがとうございました」

「いや、もう見ちゃったし。誤魔化しきれないからな」

「~~~~~~~~~~~~~~っ!!!」


 頬が紅潮し、羞恥心に耐え切れなくなった私は両手で顔を覆った。

 こんな私を見ないでくださいっ!


「気にするな。ペットが大好きな人は大抵そうなる。それより次の目的地を決めたから、そろそろ準備しようかと」

「……そうなんですね。アイトさんは大丈夫なのですか?」

「あと数日もすればアイトも動けるようになるらしい。それに合わせてまた旅再会だ」

「わかりました。それで、次の目的地はどこなのですか?」


 そう聞くと、待ってましたとばかりにニヤリと笑うレンさん。

 一枚の紙を差し出してくるので、それを受け取り読むと――。

 私は驚きを隠せず、バッと顔を上げレンさんを窺う。

 レンさんは楽しそうな表情を浮かべたまま、次の目的地を告げた。


「俺たちが目指すのは――海洋都市リヴァイア。またあの水の都へと向かう。次のSランク昇格試験の場所がリヴァイアだそうだ。それに……次に目指す死界もリヴァイアの近海にある。好都合だろ」







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