第86話 死神聖女の誘い
「おいおい、こんなところに教会なんかあるじゃねぇか!」
アイトが嬉しそうな声を出した。
野営をするよりは屋根のあるところで寝れることが嬉しいのだろう。
イバラも同様に表情を明るくしている。
しかし、煉だけは顔を曇らせていた。
「………………なんかデジャヴ」
「レンさん? どうかしましたか?」
「前にも森を探索していた時に、こうやって廃教会を見つけたことがある。その時は不思議に思わなかったが、今こうしてまた見つけると変な感じがする。違和感というか……なんでか言葉にできないが、怪しい」
「へいへい、レンくんや! 神聖な教会だぜ。怪しいだなんてありえないだろうよ」
「……なんかアイト見てたら、こんなに警戒しているのが馬鹿らしく思えてきた」
「それ酷くない!?」
わーわーと煉に向かって文句を言っているアイトを無視し、煉は教会の中に入っていく。
前はこうして中に入ると、シスターに声をかけられた。
さすがに今回はいないだろうと思っていた煉だが。
「――――こんな夜更けにお祈りですか? このようなところまでいらしてくださるとは、なんと信心深い方たちでしょう」
「……はぁ」
無意識にため息を吐いてしまった。
煉は見覚えのあるシスターを見て、自分の想像していたことが正しかったのだと確信した。
人がいるとは思っていなかったイバラとアイトは、少し戸惑いながらもシスターに挨拶を返した。
「や、夜分遅くにすみません。私たち街に向かっていたのですが、もう夜も遅いので野営をしようと思っていまして、たまたま教会を見つけたものですから休ませていただこうかと……」
「け、決して怪しいものではないのでっ! 僕はただの商人ですから!」
「ふふふっ。そうかしこまらないでくださいませ。ここは廃教会です。現在は管理者もおりません。かくいう私も、少しの間間借りをさせていただいている身ですもの」
シスターは優しそうな笑みを浮かべて二人にそう言った。
そして煉へと視線を向け、少しだけ表情を変えた。
「あなたは前にもお会いしましたね。ふふっ。あの時よりも洗練されているのがわかります。何か心境の変化でもあったのでしょう。これも、神の御導きです。あなたの道行きに光あらんことを」
「勝手に祈るな。その佇まいと魔力、前に気づくべきだった。これは俺のミスだ。完全に誘いこまれたみたいだ。すまん、二人とも」
「レンさん……?」
「何言ってんだ、レン?」
煉は二人をかばうように立ち、アイテムボックスから刀を取り出し左腰に下げた。
そして右手に炎を纏わせ、戦闘態勢へと移行した。
急に魔力を高め始めた煉に、二人は何が何やらと、戸惑っていた。
敵意を向けられた当のシスターは口元を歪め、徐に大鎌を構えた。
「やっぱりあんたが『死神聖女』なんだな」
「同じ力を持つ者同士、隠し事はできないみたいですね。ですが、私はあなたの首を刎ねるつもりはありません。少し、手合わせをと思っただけですわ。
主はおっしゃいました。同じ罪の力を持つ者、共に偽神を討滅せし者なり、と。主のお言葉です。間違いはないですが、いささか気になることもあるのです。
その者は私と共に戦うに値するのか、と。ええ、ええ。ですので、こうして相まみえたことですし、あなたの御力を示していただきたいと思いますわ」
そう言って笑った口元は三日月のように弧を描いていた。
煉とシスターの会話から全てを察したイバラは、アイトの手を引き教会から急いで飛び出した。
それを確認した煉はさらに魔力を高め、ステンドグラス越しに光を放つ月の下で煉は宣言した。
「『憤怒』の継承者、『炎魔』阿玖仁煉だ。主だかなんだか知らねぇが、他人任せの人生を生きるあんたに負けるつもりは毛頭ない。うっかり殺しちまっても知らねぇからな!」
「『怠惰』の継承者、『死神聖女』マリア・ノールダムですわ。ぜひ、私を楽しませてくださいませ。その首、離れてしまってもお許しくださいね」
月明かりの下、二人の大罪魔法士による戦いの幕が切って落とされた――――。
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