第85話 森の中の廃教会

「誰も協力するとは言ってないぞ」

「へっ?」


 めんどくさそうな表情で煉は一蹴した。

 イリスは協力してもらえるものだと思っていたのか、素っ頓狂な声を上げた。


「ど、どど、どうしてですかっ?」

「正直な話、『死神聖女』がどこで何してようが、俺には関係ない。わざわざ探してお前らに引き渡す義理もない。俺たちは俺たちの目的がある。そんなことしている暇はない」


 きっぱりと断る煉に同意するかのように、イバラは首を縦に振っていた。

 二人は全く協力する気はないようだ。

 アイトはうろたえつつも、イリスに協力すべきだと考え、煉たちを説得しようとした。


「い、いや、でもさ、煉たちが協力してくれるなら、早く事態が収束するってことだろ。少しくらい手伝ってやっても………」

「アイト、お前の言いたいことはわかるがな、俺たちはこの国の国民でもなければ七神教の神を信仰しているわけでもない。さっきも言ったろ? 俺達には関係ない話だってな」

「そうですね。国の一大事に私たちのようなただの冒険者が関わるべきではありません。この国のことはこの国に住む人たちが解決するべきです」


 煉とイバラは頑として意思を曲げることはないようだ。

 アイトは二人の意思が固いことを察し、ため息をついてイリスたちに言った。


「……すまねぇな。俺個人としては協力してやりてぇが、二人には二人の事情がある。こいつらとの約束で俺は送り届けてやらねぇといけねぇ。本当にすまん!」

「い、いえ。無茶なお願いをしているのはこちらのほうです。本来部外者であるあなた方が関わるべきことではないと理解しているのですが、何分相手があのマリア様です。不安が拭えないのは確かですが、我々の力を尽くすことにします。わざわざお時間をいただき、ありがとうございます」


 イリスはそう言って頭を下げ、煉たちに退出を促した。

 こうして煉たちは無事?国境を超えることができたのだった。




 ◇◇◇



 穏やかな草原を馬車はゆったりとした速さで進んでいく。

 砦を出てから三人は会話をすることなく静かだった。


「……なあ、本当に協力しねぇのか?」

「しないって。『死神聖女』はアイトも知ってるだろ? 世界中の冒険者ギルドで指名手配されるほどだ。しかもまだ捕まっていないどころか、わざわざ表立って殺人するような奴だぞ。相当の実力者だ。それも並みのSランクじゃ相手にならねぇくらいのな」

「煉でも勝てねぇのか?」

「勝てる……なんて簡単に言えねぇ。実際の実力も未知数だしな。まあ、こっちもそう簡単に負けるつもりもないが」

「イリスさんの話では『死神聖女』は元七神教の聖女マリア様だという話です。聖女というのは誰よりも神に近い存在であり、神聖魔法の優秀な方に与えられる地位です。元、ということはもしかしたら今は神聖魔法を使えない可能性もありますが、マリア様はほかの魔法も優秀だという話です。冒険者であればSランク越えなのは間違いありません」

「ってことだ。むやみやたらと関わる話じゃないんだ。わかってくれ、アイト」

「……ああ、そうだな。無理言ってすまねぇな」

「お前の気持ちはわかるさ。謝る必要はねぇよ」


 そう言って、煉とアイトは笑い合った。


「しっかし、砦で思わぬ時間を取られちまったからな、夜までに街まで着くのは無理そうだ。途中の森の中で野営でもするとしよう」

「そうだな。俺たちなら魔獣出ても問題ないしな」


 そうして煉たちは森の中に入った。

 少し広めのスペースを探して進んでいくと、煉は前にも感じた気配を察知した。

 警戒しつつ気配を追って森の中を行くと、人気のない寂れた教会にたどり着いた。








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