第84話 教国の情勢
「――つまり、我々はこの可愛らしいイリス隊長を愛でるために組織されたのだ!」
「へぇ。なるほどねぇ」
煉たちは国境にある神聖騎士団の砦に案内された。
そこで副官のキューネに、隊長であるイリスの話を散々聞かされていたのだった。
「………………は、恥ずかしい……もう、お嫁にいけない………………」
「隊長がお嫁に行くことはしばらくないのでご安心を!」
「それはそれでなんか嫌!!」
あれやこれやと恥ずかしい話をされたイリスは、耳まで真っ赤にして涙目になっていた。
アイトはそんなイリスを見て、なぜか頬を赤くし鼻の下を伸ばしていた。
(なあなあ、レンや)
(なんだ、アイト)
(ちょっと分からないことがあってな、なんでか知らんが彼女を見ていると俺の心臓がうるさいんだが、どうしちまったんかな)
(そりゃお前、むぐっ)
(ダメですよ、レンさん! 余計なことを言ってはいけません)
煉とアイトの内緒話に割り込んだイバラは、煉を引き寄せ今度は二人でこそこそと話し合った。
(アイトさんはおそらくイリスさんに恋をしています。一目惚れというやつですね)
(そうなのか。どうしてだ?)
(どうしてって……恋は理屈ではありません。先ほどレンさんはイリスさんに直接何か言おうとしてましたね。アイトさんがドキドキしてるみたいだけど何かしたのか、とか)
(すげぇ。よくわかったな)
(やっぱり。レンさんのことだから人の感情に疎いと思っていましたが、恋とは難しいモノなんです。第三者が余計な口を挟むことで瓦解してしまうことだってあるのですから、ここは慎重に行きましょう)
(つっても、どうするんだよ)
(まずはアイトさんに恋心を自覚していただきます)
(じゃあ、アイトに教えてやればいいんだな)
(ダメですってば! こんなところで自覚させてはいけません。せめてイリスさんのいないところで、です!)
(お、おう。なんか興奮してんなぁ……)
いつになくイバラのテンションが高いことに驚いていた。
それよりも、煉はイバラに「人の感情に疎い」と言われたことに、少しだけダメージを受けていた。
「さっきから何をこそこそと話しているのですか?」
「い、いえ。こちらの話です。それよりも私たちが引き留められたことについてお教えいただけますか?」
「そうでしたね。まずは非礼をお詫びします。こちらの勘違いとはいえ、あのように取り囲んでしまって……」
「それはもういいさ。あんたらは『死神聖女』って言ってたな。それ関係だろ。教国は今厳戒態勢を敷いているって聞いた。できれば何があったのか教えてほしい」
「! なるほど……ギルドの情報網というのは侮れませんね。こちらとしてもあなたほど強者の協力を得られるのであれば是非もありません。『炎魔』レン・アグニ殿」
「なんだ、知ってたのか」
「もちろんですとも。その特徴的な深紅の髪と顔と右腕の紋様、教国でも噂は届いております。……そちらの方はご存じなかったのでしょうか?」
「ん? って、なんでアイトはそんな幽霊でも見たような顔をしてんだ?」
「れ、レン! お前、あ、あの『炎魔』だったのか!?」
「気づいてなかったのかよ……」
「全然気づかなかった。『炎魔』に憧れた人だったのかと……」
「アイトさん……商人として致命的ですよ。人を見る目がないのは」
「うぐっ!」
イバラの辛辣な言葉がアイトの胸に刺さった。
今にも泣きそうな顔で部屋の隅に蹲ってしまったアイトを無視して、煉は話を続けた。
「『死神聖女』が大聖堂で暴れたっていうのは知ってる。どうしてそんな血眼になって探し回っているんだ?」
「そうですね。まず『死神聖女』の正体ですが、彼女は元七神教の聖女マリア・ノールダム様でした。マリア様は大聖堂にて、大司教以下司教様方の首を刎ね、大量虐殺を行いました。
マリア様の言によれば、これは粛清だと、おっしゃっていたそうです。私たちも最近知ったのですが、大聖堂に地下があることが判明いたしました。詳しいことはお話できないので簡潔に――――七神教の闇が発覚し、現在国は二分されました。
七神教の闇を隠蔽しようとする聖王様派、そして、七神教の膿を排除しようとする革新派。
そのため、国は内乱が起こり、危険な状態となってしまいました。
そこで、上層部が考案したのが、『死神聖女』であるマリア様を捕らえ全ての罪を擦り付けようというものでした。
ということで、現在はマリア様捜索のために神殿騎士が駆り出されているというわけです」
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