第83話 神殿騎士イリス

「それで、あんたら何者? そんな仰々しい甲冑纏って、俺たちになんか用か?」


 煉はいつもの調子でそう言った。

 煉にとっては騎士の数十人、物の数に入らないのだ。

 馬車ではイバラがため息を吐いていた。


「レンさん、いつも言っていると思いますが、少しは下手に出るってことの必要ですよ」

「いや、こんないきなり囲まれて下手もなにもないだろ」


 煉とイバラが話していると、馬車の正面にいる騎士の中から一人前に出てきた。

 そして兜を取り、顔を晒した。

 長く綺麗な茶色の髪がはらりと舞い、騎士とは思えない優し気な目をした女性の騎士だった。


「この者らで間違いないですか?」

「はっ。感知水晶の座標に間違いありません。魔測晶もあの赤髪の男を示しています」

「そうですか。では――――貴君らにはまず身分を証明していただきます。その上で、こちらが判断するといたしましょう。名を名乗」

「いや、お前らが名乗れよ」


 騎士の言葉に食い気味で煉が反応した。

 そのせいか女性騎士はなぜか顔を赤くしている。

 女性騎士の様子に煉たちが首をひねっていると、側にいた副官の騎士が煉に向かって叫んだ。


「貴様! 隊長はカッコよく決めようとなさっていたのだぞ! 雰囲気を台無しにするな!!」

「こ、こら! 私がそんなことするわけないでしょうっ……! 私はただ、彼らに名を聞こうと思ってですね……」

「ですが、隊長。名を聞くだけなら前置きは要らなかったのではないかと」

「ギクッ!」


 気まずそうに顔を逸らした。

 図星をつかれたような、そんな気配を察知し煉はニヤリと笑った。


「ほほおぉ。そう言うことだったのかぁ。それは失礼なことをしたなぁ。それじゃ、ワンモア!」

「やるか、バカ!! うぅ~」


 女性騎士がさらに顔を紅潮させ両手で顔を覆った。

 煉はその様子を生暖かい目で見ていた。

 なぜか兜で顔を隠しているはずの騎士たちも、煉と同様の目を向けていたことが感じられたのだった。


「そ、そんな目で私を見るなぁ! くっ! やるならやれぇ!」

「何もしねぇよ! 何されると思ったんだあんたは! はぁ……まず、あんたら誰だ?」


 煉がそう問いかけたことで、話が元に戻った。


「わ、私たちはゼウシア神聖教国の守護をする神殿騎士。その国境警備の任を与えられた部隊。私は部隊長のイリスです」

「私はキューネ! 神殿騎士イリス隊副隊長にして、隊長お守り隊隊長である!

 そして彼らが!!」


「「「「「我ら隊長お守り隊隊員です!!!!」」」」」


 馬車を囲んでいた騎士たちが一斉にポーズを決めた。

 あらかじめ考えていたかのようにスムーズだった。

 煉は額に手を当て空を見た。

 イバラは変なものでも見るかのような目をしていた。

 アイトは物珍しそうな目で彼らを見ていた。

 そして当の隊長はというと……。


「お、お前ら何をっ!? わ、わた、私は、そんなもの知らないぞっ! だ、だからっ、そんな目で私を見るなぁぁぁぁぁぁ!!!」


 わたわたと錯乱していた。

 煉とイバラは同じことを思った。


「「やべぇ、変な奴らに囲まれてしまった………………」」


 と。








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