第43話 降霊魔法
鼓動が鳴り響き不穏な気配が漂ってきた。
「……何をした?」
「今まさに魔法は発動した。これより神が御降臨なされる。時は来た。……それより悠長に構えていていいのかね? 後ろを見たまえ」
「後ろ……?」
言い方が気になって振り返ると、イバラが心臓を抑えて蹲っていた。
苦しそうに呻き声をあげている。
「イバラ!? どうした!?」
「はぁ……っ……はぁ……あ……あつ……い……ぐっ、あぁぁ……」
イバラの体に尋常じゃない量の魔力が集まってきていた。
一体何が起きているというのか。
「おい! 何をした!?」
「君も話は聞いているだろう? ――――降霊魔法さ」
「降霊、魔法……」
「その様子では降霊魔法の力を知らないようだね。では、神が降臨されるまでレクチャーをしてあげよう。
まず降霊魔法とは、使用者に霊――つまり魂や死者の存在を憑依させる魔法だ。それにより一時的に自分にはない力、知識を得ることができる。その分身体的な負担は大きいがね。そして降霊魔法における最強の力、それは……神降ろし。その身を神の器として捧げ、地上に神を出現させることができる。
そして神降ろしを使用できるものは限られる。純粋な鬼の血を引く十代の少女。そして黒髪に紫の瞳。まさしくその娘は神器たり得るのだよ。
かつて『災厄の鬼』と呼ばれた少女もそうだった。一夜にして一国を滅亡させた鬼は降霊魔法によって神降ろしを行った。その時の鬼の少女は莫大な魔力を有していた。その身一つで神を宿すことができた。
しかし、そこの娘では魔力が足りない。いくら『災厄の鬼』シュテンの子孫と言えど、魔力が無くては神の器たり得ない。
そこで私が目を付けたのは娘の持っていた他の魔法。感応魔法と変成魔法だ。二つの魔法によりある生贄の製作に成功した。
なんだかわかるかね?」
そんなものわかるわけが……。
『犯罪者や末端の兵士たち、それに孤児。私の魔法で心臓を変成し感応魔法で力を増幅させたんです』
ふと、イバラが話したことを思い出した。
もしかして……いや、まさか。
「……………………まさか孤児や兵士たちの心臓は」
「その通りだよ!! そう!! まるで能力のない孤児や兵士、そして汚物である犯罪者たちの心臓に変成魔法で魔法陣を植え付け、同じ魔法陣を宿すもの同士を感応魔法で結びつけ魔力を増幅させる。すると役立たずなクズどもは有能な魔力路に変化した! 素晴らしい利用法だと思わないかね!! 使えないゴミの有効活用を実現したんだ! まさに画期的だろう!!」
「……狂ってやがるっ。人を何だと思ってんだ!?」
「能のない蛆虫どもがのうのうと生きていることに意味などない! 私の理想に命を捧げることができるのだ! むしろ感謝してほしいくらいだね!!」
「ふざけんな! お前は………………絶対に許さない!!」
「それは結構なことだ。しかし、もう遅いのだよ。見たまえ!」
空で光を放つ遠大な魔法陣に魔力が上昇していく。
周囲を囲んでいた兵士たちから苦しそうな叫びが聞こえた。
「うっ………ぁ、あぅ、うああぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」
「イバラ!?」
イバラの絶叫と同時に激しい地震が起きた。
街の方からも悲鳴が上がり始めた。
「さあ、我らが主の降臨である! あれが、海神ネプトゥーンだ!!」
空が割れ、三又の槍を携えた怪物が海に降り立った。
形容することができないそれは津波を連れ、リヴァイアの街へとゆっくりと歩を進めた。
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