第42話 ニクセス・ドナウリア侯爵
「ああ? なんだ、あんた?」
突然現れた変な男に訝し気な視線を向ける。
というか、眩しい。夜だというのに昼間のような明るさになった。
この男が連れてきた魔術師たちの魔法によって、付近が明るく照らされているみたいだ。
それにしてもイバラが酷く怯えている。じゃあ、もしかしてこいつが……?
「ふむ。自己紹介がまだのようだ。私はネピュトゥナス王国軍にて将軍位であり、王国軍最高責任者、ニクセス・ドナウリア侯爵だ。この街の領主でもある。聞いたことくらいあるのではないかね?」
「……そうか。お前が侯爵か。お前をどうにかすればイバラが苦しまなくて済むんだな」
「確かにそうだね。君の力は凄まじい。私の見たことのない魔法、底知れない魔力の持ち主。私が一人であったのならば確実にやられていたことだろう。しかし、私は将軍。兵を率いるのは得意でね。例え個の力に優れていたとしても、数に勝るものはない。ましてや君はまだ若い。経験が足りないよ。その娘を置いて出直してきたまえ」
明らかに煽るような口調でそう言った。
挑発だとわかってはいるが、心にある炎が燃え盛る。
悪びれもせずイバラを利用しようとするこの男に対して怒りを覚える。
「……ふざけんな。誰がお前なんかにイバラを渡すかっ」
「ふむ。では聞くが、君がその娘を助けるのはなぜだ? まったく関りのない赤の他人だろう。たまたま森で出会っただけの関係だ。それなのになぜ?」
そんなもの決まってる。
「……俺は俺の目の前で起こる全ての理不尽を焼き尽くすと誓った。例え何が立ちはだかろうが俺の邪魔をする奴は全て焼き尽くしてやる!」
「ほう。いい目だ。君のような男を部下にほしかったのだが、私の邪魔をするというのなら別だ。――――ここで死んでもらう」
「やれるもんならやってみろ」
怯えるイバラを背に、全身から炎を滾らせる。
俺の様子に兵士たちが気圧されたように後ずさる。
侯爵だけは笑みを浮かべていた。
「やはり、素晴らしい。本当に残念だよ。こんなところで終わってしまうなんて。私たちの理想はもう目の前だ。……そうそう、君たちは用済みだ」
そう言うと侯爵の側にいた二人の男が、リーダー以外の冒険者たちを切り捨てた。
仲間が切られる様子を呆然と見るリーダーは、何が起きたか理解できなかったようだ。
「は……な、んで……?」
「用済みだと言っただろう? ここにいても邪魔だ。かといって生かしておく理由もない」
「そんな……」
為すすべもなく首を刎ねられ絶命した。
正直目の前で人の死を見るのは初めてだったが、何の感情も抱かなかった。
ただ、淡々としていた。
「そいつらは仲間じゃないのか?」
「雇われの冒険者に過ぎない。何の価値もない虫けら同然だ」
「イカレてるな」
「君もだろう。目の前で人が死んだというのに動揺もない。本当に君が欲しかったのだが、私の目的に勝るものでもない。これを見たまえ」
侯爵は部下から何かを受け取り、広げて俺に見せてきた。
大きな紙みたいなものに幾何学的な魔法陣が書かれていた。
「なんだそれ?」
「私の崇高な理想を叶える魔法だよ。これを使って世界を変える」
「世界を……変える?」
「そうだ。この世界は愚かな人間で溢れかえっている。無能で無価値な人間たちが偉そうに闊歩している。……そんなゴミのような有象無象を減らし、選別する」
「何言ってんだ、お前。そんなものが崇高な理想だと? 頭おかしいんじゃないか」
「君には理解できぬよ」
「偉そうにお前が人を選別するのか? 何様のつもりだよ」
「無論私が選ぶのではない。――神だよ」
「神だって?」
「そう! 我らが敬愛する神だ! すべて神が選別する! 新たな世界を生きるに値する人間たちを!!」
「そんな存在するかあやふやな奴に任せるって言うのかよ。バカげてる」
「神は存在する。それを私自ら証明する!」
侯爵は広げた魔法陣に血のような液体を垂らした。
すると魔法陣は怪しい光を放ち、空高く浮かびあがった。
――――ドクンッ。
何処か遠くから心臓の鼓動のような音が世界に響き渡った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます