第41話 襲撃

「はあ…………っ……はあっ…………どこに行ったんだっ」


 あれからイバラを探して街中駆けまわった。

 ギルドやクレニユの工房他イバラが行けそうな場所はしらみつぶしにあたった。

 しかし、どこにもいない。

 もしかしたら街の中にはいないのかと思い、森に向かおうとしたが、ふと視界に入った海が気になった。


「…………行ってみるか」


 貴族に連れ戻されていないことを祈り、まだ行っていない海に向かうことにした。

 ここまで焦りを感じるのは、つい数時間前にシスターに言われたことが頭に残っていたからだ。

 災いはすぐ側に来ている。大切なモノを失うかもしれない。

 その言葉が焦燥感を加速させる。


 夜の海は暗かったが街の喧騒から離れ、波の音だけが聞こえる空間に心地よさを感じた。

 人のいない砂浜、商船の並ぶ海岸、灯台。そのすべてが一望できる屋根の上に立ち、人影を探す。

 すると、灯りのついていない灯台の下に黒い人影が見えた。

 一か八かでその人影の下に向かった。


「――――イバラ!?」


 そう声をかけるとその人は振り返った。

 遠くからではよく見えなかったが、こうして近くで見るとその人は俺が渡したローブを着ていた。

 良かった。見つかった。

 安堵した俺は息を吐いて呼吸を整えた。


「勝手にいなくなるなよ。心配するだろ」

「……ごめんなさい。なんだかここに来ないといけない気がして」

「なんだそれ。それならもういいだろ? こんな時間だ。もう帰って寝よう」

「……そう、ですね……自分でもよくわからないんです」

「そうか。続きは宿でゆっくり聞くよ」


 イバラの横に立ち、宿に帰ろうとすると背後から足音が聞こえた。

 見ると数人の男たちが俺たちの下に向かっていた。

 イバラを守るように前に出て、警戒する。

 だんだん近づいてくると男たちの顔が見えるようになった。

 その顔は見覚えのある顔だった。


「お前らは……あの時の破落戸か」

「久しいな少年。今日こそ、その娘を渡してもらおう」

「悪いが、何度来ても返り討ちにしてやるよ」

「言っておくが、先日の我らと同じと思うなよ!」


 リーダーの男がそう言うと、男たちのさらに後方から結構な数の魔法が飛んできた。


「っ!?」


 咄嗟に俺とイバラを囲うように炎壁を出現させ魔法をはじく。

 しかし、魔法は立て続けに降ってきて動くことができない。

 ましてやイバラを守りながらだとさらに難しい状況だ。


「その壁も長くはもつまい。大人しく娘を渡せ。そうすれば少年、貴様だけは見逃してやろう」

「へっ。誰が渡すかよ。イバラは俺が守るっ約束したんだ。男が一度交わした約束を破るわけにいくかよ!」


 魔法の方角から魔術師たちの位置をある程度特定し、壁の内側で魔力を溜める。

 今回は正確性より弾数。数撃ちゃ当たるってやつだ。

 魔法が一瞬止んだタイミングで炎壁を消し、空に向かって大きな炎弾を放つ。


「降り注ぐは焔の矢〈紅炎驟雨フラム・レイン〉!」


 打ち出した炎の球が爆ぜ、大雨となって砂浜に降り注ぐ。

 穏やかだった海沿いが阿鼻叫喚の地獄へと変化した。

 男たちもその絶叫を聞き、動揺を隠せないでいた。


「……どっから連れてきたか分からないが、残念だったな」

「くっ……!」


 悔しそうに顔を歪め、睨みつけてくる。

 そんなものどこ吹く風と流していると、その場の空気に不釣り合いな拍手が響いた。


「素晴らしい力だ。是非とも我が軍に加えたいところだが、いかがかね? 待遇は期待していいとも」


 軍服を纏い威風堂々とした長身の男が多くの兵士を連れ、俺たちの前に現れた。






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