第221話 由来
『Sランク昇格試験とは、一種のお祭りのようなモノだ。
一年に一度行われ、開催地は毎年場所を変えて行われる。
そのため、試験が行われる都市によって試験内容も変化する。
武闘大会、狩猟祭、ダンジョン攻略戦等様々だ。
そしてなんと、今回の開催地は海洋都市リヴァイア。
ここで試験が行われるのは初で、試験内容については誰も予想できない。
リヴァイアには海、森、山、その全てが揃っている。
その上街中には巨大なスタジアムもある。
今回の試験は、何が起きるか分からないと冒険者たちの注目を集めていた』
「……ですって」
ギルドで配られていたチラシを読み、イバラが隣を歩く煉を見上げて言った。
そのチラシは、二か月後に行われるSランク昇格試験について記事が書かれている者だった。
「そんな大層な催しだったんだな」
「みたいですね。開催地に選ばれた都市では世界中から商人や貴族が集まるそうです。この記事の通り、ある意味でお祭りのようなモノです」
「まあ、祭りって聞いて悪い気はしないけどな。屋台とかいろいろでるんだろう? 美味いもんもあるだろうし、そう思うと楽しみだな」
「レンさん……そんなお気楽でいますけど、本命はSランクへの昇格試験です。各地の冒険者ギルドで推薦を受けたAランク冒険者が一堂に会するんですから、一筋縄ではいかないと思いますよ。もう少し気を引き締めてください」
自分が受けるわけではないのに、煉よりもイバラの方が肩に力が入っていた。
その主に同調し、イバラの足元で興奮気味なソラは吠えながらその場を駆け回っている。
「こ、こら。少し落ち着いてください」
「イバラもな。なんでイバラがそんなに緊張してんだよ。少し力抜けって」
「……しょ、しょうがないじゃないですか。なんだか気持ちが昂ってしまって」
妙にそわそわしているイバラの肩に手を置き、落ち着かせようとする。
何か話題を変えようと、煉は気になっていたことを訊ねた。
「そう言えば、『ソラ』って名付けたけど何か理由があるのか?」
「……八割ほどは思い付きです。無我夢中だったので咄嗟に口を衝いて出たのがそれでした」
「残りは?」
「何かの本で〈スコルは天候を操る〉、というような文言を見たんです。それが正しいかはわかりませんが、それが頭から離れず『ソラ』と……」
「天候を操る、ねぇ……」
煉はいつか見た魔獣図鑑に書いてあったスコルの記述を思い出す。
そこには天候を操るという文言はなかったが、それに近い能力を持っていることは書かれていた。
あながち間違いではないのでは、と納得の表情を浮かべた。
「ま、呼びやすいし気に入っているみたいだしな」
「そうですね」
大型犬サイズのソラは、頭にはてなマークを浮かべ首を傾げていた。
その可愛らしい仕草に心を打たれたイバラは、人目も憚らずわしゃわしゃとソラを撫でまわす。
煉は大きなため息を吐いた。
「……もう少ししたら出発するけど、準備は大丈夫か?」
「はっ! ソラと遊ぶのに夢中で忘れてました! 明日には必ず!」
「……まだ契約するのは早かったかもしれない」
小さく呟いた煉は少し後悔するも、ソラのモフモフの毛並みを見て、まあいいかと開き直った。
「試験は二か月後ですけど、間に合うんですか? どうやって行くか聞いてませんけど」
イバラの問いに、煉は視線で答える。
煉の視線を追ったイバラは理解を示し、「なるほど……」と呟いた。
二人の視線の先には、どこまでも青く広がる海。
「二週間もあれば着くらしい。初めての船旅だから結構楽しみにしてるんだ」
珍しく年相応の笑みを浮かべ、煉は目をキラキラと輝かせていた。
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