第24話 激励
「――ハッ」
気が付くと俺はうつ伏せで倒れていた。
時間がわからないからどれくらい倒れていたかもわからない。
体は未だにボロボロだが、歩けるくらいには回復したみたいだ。
経って一日くらいだろう。
手に持っていた『紅椿』もいつの間にか消えていた。
「何だったんだ、あれ。咄嗟に頭に浮かんだ詠唱を唱えたら出てきたけど……そういや詠唱も思い出せねぇな」
ゴルゴ―ンを斬った感触は今でも手に残っている。
『紅椿』を握っている間は全身の感覚が研ぎ澄まされたような気がした。
あれは相当な業物だと思う。
もしかすると『紅椿』も大罪魔法に関係するのかもしれない。
そうしてその場で座り込み考え続けた。
「……まあ、今は良いか」
いつか意識して手に取れることがあるだろう。
そう思い、立ち上がる。
ボロボロの体は今でも治りきっていない。
右腕の筋肉なんて特にひどい。
俺は何か持っていなかったかと、アイテムボックスを漁った。
「これじゃない……あれでもない……これでもない…………って、なんかこんな状況どこかで」
某猫型ロボットと同じようなことをして、ついに目的の物を見つけた。
「これだー……って、初級回復薬しかないんだった」
召喚された当初、勇者たち全員にある程度のアイテムが配布された。
困った時のためということだったが、なぜか俺は全て初級しかもらえなかった。
役人が言うには、ジョブなしの無能には初級で十分だとか。
確かにその時は俺もそう思ったが。
対して美香は、全て特級が与えられていた。
この扱いの格差に涙が出てくる。
「まあ、初級でもないよりましか」
そう言って、試験管のようなものに入っている緑の液体を飲んだ。
「――まっず!」
薬草の味。
そうとしか形容できない。
ただただ苦い草の汁を飲まされているだけ。
多少の回復効果はあるが、精々擦り傷がなくなったくらい。
「これなら飲まなくても良かったかも……」
気を取り直して、周囲を見渡す。
特にこれまでと変わりない洞窟。通路の幅は狭く一直線。
後ろにあった扉はなぜか消失しており、前に進む以外に道はなかった。
この分だと曲がり道もなさそうだ。
言外に、この先以外に行くなと言っているのかもしれない。
「ま、なるようになるってことで。せっかく死闘を潜り抜けてここまで来たんだ。胸を張って凱旋といこうか」
そう言って堂々と歩き出す。
そして――――…………。
……………………………………。
………………………………………………。
体感距離、およそ三キロ強。
無駄に長い直線を進み切った先はちょっとした小部屋だった。
地面には小さな魔法陣が四つ。
部屋の四つ角に設置されていた。
誰かこの状況を説明してほしいくらい困惑している。
どれかに乗れってことか? いや、わからない。
というか、何が起こるのか想像つかないから少しためらっている。
こういうときは何かで試してみるのが得策。
そう思った俺はアイテムボックスにあったリンゴを……いや、リンゴはダメだろう。
貴重な食料だし、それよりリンゴなんてあったのかよ。
ちゃんとアイテムボックスの中身確認しておけばよかった。
とにかく、この際そこら辺の岩でもいいや。
それを一つの魔法陣の中央に置く。
「何も反応しないか……」
やはり覚悟を決めて魔法陣に乗るしかないのか。
仕方ない。勘で行くとしよう。
決心した俺は、右側の奥にある魔法陣に乗った。
すると魔法陣は眩い光を放ち始めた。
そして自分の体に変化が起きた。
体が軽くなり、ボロボロだった体がなぜか回復していた。
一体何が――その時、聞き覚えのある声が聞こえた。
『よくここまでたどり着いたな、契約者。俺が残した魔獣を倒したということは、ここから出ても特に問題ないと言える。なぁに、神殺しを為すんだ。あんな蛇に苦戦するなんてことないだろう。俺はそう思う』
「普通に死にかけたんだけど……」
『とはいえ、無理をしたと思うから回復はおまけだ。思う存分感謝してくれ!
――さて、『憤怒』の力を持つ契約者よ。これからさらに苦難の道が待ち受けていることだろう。だが、そんなもの気にするな! やりたいようにすればいい。気に入らないものは全て燃やし尽くせ! それくらいの力はある! 『赫怒の炎魔』サタンが保証する。君の活躍を彼方より見守っている』
サタンからの激励をもらった。
後は地上に出るだけだ。
さて、それじゃ……――――。
『そうそう。後は適当に跳ばすから。俺もどこに跳ぶかわからん! まぁ、頑張ってくれや。そんじゃ』
最後の余計な一言が終わると光がさらに強くなった。
「マジで……………………ふざけんなぁぁぁぁぁぁ!!!! サタン!! この野郎!! 最後までちゃんと責任取りやがれぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!!!!!」
その場から俺の姿が消える直前、怒りの叫びが木霊した――。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます