第178話 復興の兆しと新たな道筋
玄武が討伐されてから、およそ一週間。
イザナミの街は前と同様、活気で溢れ返っていた。
此度の災禍での被害は思いのほか小さく、街の人々が皆協力して復興に力を注いでいる。
時間がかかっているのは、大量に散らばった魔獣の死骸の処理、そして海上に放置された玄武の甲羅。
巨大なそれは、冒険者ギルドでさえ扱いに困っている状態だった。
煉も少し協力し、運べるほどの大きさに切断したのだ。
大量の玄武の甲羅は、ギルドを通じてオークションが開催されることだろう。
世界中の職人が喉から手が出るほど欲しがる最上級の素材となる。
玄武を討伐した煉とそれに協力したグラムらにオークションで出た利益の数割が支払われるという話を、煉はクレインからぼんやりと聞いていた。
「ともあれ、これでようやく落ち着いてきたなぁ……」
「何をしみじみと。レンさんが余計な仕事を増やしたからこんなに時間がかかっているんですからねっ」
「ハハハ……。まあ、やっちまったもんはしょうがねぇよなぁ……」
煉は誤魔化すように笑う。
玄武を倒す際に使用した魔法の影響で、港は半壊、停泊していた船は全焼、海水が蒸発し、イザナミの陸地が大幅に増えたのだ。
その結果、連合内の国々からの支援に遅れが生じ、簡易的な船の作成に時間を取られ復興が大幅に遅れてしまった。
これには、さすがの煉も申し訳なさそうにしていた。
その項垂れた姿を見たクレインも怒りが鎮まり、何も言えなかった。
もちろん、煉がそうなったのはイバラのお説教によるものだ。
イザナミを救った英雄も、小さな鬼の少女には勝てないらしい。
「ミズハノメも大変みたいですよ。なんと言っても、魔郡帯が無くなってしまったのですから。高品質の食材の狩場が無く、食糧難になってしまうかもしれないと」
ここ一週間、ヴィランの撒いた猛毒を除去するために、ミズハノメとイザナミを行き来していた。
毒の除去が完了したところで、次に待ち受けているのは食糧難の危機であった。
これまで魔郡帯で大量の食材を確保していたミズハノメにとっては大きな問題であった。
しかし、それでもミズハノメに住む街の人々は皆明るく笑っていた。
「魔郡帯が無くなってしまったのは残念だが、あんな国の危機を乗り越えたんだ。生きてるだけマシってものさ。幸い、海にも食材となる魔獣は豊富だ。俺たちは運が良い」
そう言って笑い合うミズハノメの人々を見て、煉もイバラも笑った。
どんなことがあっても、前を向いて笑える人たちの強さを実感したのだった。
「……そう言えば、アイトは?」
「ギルドマスターと交渉中です。玄武の甲羅を一部譲ってほしいと」
「あんなのもらってどうするんだよ」
「いつも通りでしょう。魔道具の材料にするのではないですか?」
「相変わらずだな。というか、あいつも随分図太くなったな」
いつも通りのアイトに、煉は苦笑する。
すると、イバラが思い出したように話を切り出した。
「――そう言えば、ヴィランさんが探してましたよ。レンさんに会いたいって言ってました」
「断る。あいつの相手をするのは疲れた……」
心底嫌そうな表情を浮かべ、煉は嫌々と首を横に振る。
この一週間の内に、煉は何度もヴィランに追いかけまわされていた。
何処に行ってもいつの間にかヴィランが陰から覗いているという恐怖体験を繰り返し、煉はここ二日間何もせずに引きこもっていた。
「仲良くしてみてはいかがですか? ちゃんとお話ししてみると面白い方ですよ?」
「それはイバラだから言えることだ。俺には絶対無理!」
「はぁ……そうですか。それより、今後の予定は決めたんですか?」
イバラがそう訊ねると、煉は目つきを変えた。
いつになく真剣な面持ちで、緊張感を漂わせている。
「――――もちろん、空中庭園に向かう。誰も見たことのない景色を、見に行こう。場所は鍵が示してくれる」
そう言って懐から赤い水晶玉を取り出す。
空中庭園の鍵である水晶玉は、ある方角へと一直線に光を放っていた。
誰も到達できなかった地へ、彼らは挑む――――。
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