第156話 現れたのは

「ブモォォォォ――――!!!!」


 三人の視線の先で、巨大なハルバードを手に持った黒いミノタウロスが雄叫びを上げた。

 威圧の込められた雄叫びを聞いたイバラとアイトは、身を竦ませる。

 煉はひとり、カラカラと笑っていた。


「ははは。どうした? ビビったか?」

「……当たり前だろ。なんでキングなんているんだよ。話と違うぞ」

「それは俺も知らない。だけどこれだけは言える。その恐怖を乗り越えて、あいつと戦えるのなら、二人は絶対に強くなる」


 楽しそうな笑みを引っ込めて、煉は鋭い視線でゆっくりと迫りくるキングミノタウロスを見た。


「『王』を冠する魔獣は、どの個体も体調五メートルを超す。さらに他の魔獣と違い、知性を宿し特殊なスキルを持つ。キングミノタウロスなら『武具精製』とかな。どっからあんなハルバードを拾ってくるのかと思ったが、自分で作ってるなら納得だ。かなり強敵だけど、二人の力はそれに負けていない。自信を持ってぶつかってこい」


 煉は二人の肩に手を置いて激励した。

 その言葉は煉からの信頼の証でもある。

 二人はそう認識すると、目の色を変えた。

 煉の期待に応えるため、そしてこれからも煉と共に戦い続けるために、ここで壁を越えなくてはならない。


「それにほら、スコルよりは全然弱いし。そう思うと大丈夫だろ?」

「確かにそうですね。あの子の方がよっぽど迫力があります。それにモフモフで可愛いです!」

「いや、どっちも怖い――何も言ってません。スコル最高! 全力で頑張ります!」


 何かを言いかけたアイトは、なぜかイバラに睨まれ言葉を濁した。

 さらにイーリスを高々と掲げ、キングミノタウロスへと向かって走り出した。

 イバラもそれに置いていかれまいと、長杖に乗って飛んでいく。

 二人の姿が遠く、小さくなったのを確認した煉は険しい顔を浮かべ後方に目を向けた。


「いつまで隠れてるつもりだ? とっとと出てこい」


 すると現れたのは、中性的な見た目で濡れ羽色の巻き髪を持った少女?だった。



 ◇◇◇



「――――アイトさん、繋げます! 〈感応接続コネクト〉」


 感応魔法による、回路の接続。

 それにより、二人はイバラによって定められた感覚を共有することになる。

 その結果、一人に対しての強化魔法で二人を強化することができ、魔力の節約になるのだ。

 煉相手であれば、イバラが魔力を温存する必要もないのだが、今回は二人で戦うため、出来るだけ魔力消費を減らすようにしていた。

 イバラは魔術師であれば、誰でも使える簡単な強化魔法をアイトに重ねがけし、戦闘に備えた。


「とりあえず様子見です。今の私たちとの実力差を測りましょう」

「そうだな。まずは――って、なんかおかしくないか?」

「え?」


 アイトは、突然ふらふらと揺れ始めたミノタウロスを見て、怪訝な表情を浮かべた。

 つられてイバラも目を向けると、キングミノタウロスの巨体が前のめりに倒れた。

 その後頭部には、一本の矢が刺さっている。

 一体誰が、と二人が思ったその時――。


「キング一体だけだなんて、さっきまではもっと大量にいたはずなのに。どうしてでしょう。これでは腹の足しになりませんね。ゴブリンより先にこちらを優先するべきでした」


 キングミノタウロスのさらに奥から、一人のエルフが現れた。

 スラっとした長身に長い金髪を靡かせた美青年の姿に息を漏らしてしまう。

 エルフとは総じて美形な種族なのだが、そのエルフは群を抜いている。

 その見た目には合わない、禍々しい魔弓がより人の注目を集めることだろう。

 エルフの視線は、二人に向いた。


「人と鬼、ですか……。相容れない種族ですが、これは面白いですね。しかし、私の空腹を満たしてくれるものではありません。早々に立ち去っていただけるのなら、見逃しましょう。いかがですか?」









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