第193話 アイトの奮闘

「……どうしよう……」


肩を落とし、呆然と呟いた。

海中の魔法陣に達し、青い光に包まれたあと気づけば俺一人こんな湿地帯に飛ばされていた。

二人は一体どうなったのだろうか。

俺のように、別の浮遊島に飛ばされてしまったのか。

今はそんなことを考えていても仕方ないのだが、一人という寂しさが二人の存在を求めている。


「この死界に来て初めて魔獣を見たな。それにしては動きが不自然なような……」


蜥蜴の魔獣は、同じルートをぐるぐると回っているだけのようだ。

そうかんがえると、蜥蜴にはあまり意識しないでもいいのか。

しかし、空を飛び回っているゴーレムはヤバい。

あれは保有魔力量からして俺と同程度。

しかも空を飛ぶというアドバンテージすらある。

俺にいくらイーリスがあろうと、あれを倒すのは一苦労だ。

それに数も多い。

一体一体を律儀に相手にするのは困難だ。


「こういうのは大体制御してる個体がいるはずたからな。そいつさえ見つけられれば」


俺は目を凝らして、ゴーレムを観察した。

他とは違う何かを持っている個体がいると思ったのだが、思いの外違いがわからない。

むしろ、どれも同一個体なのかも知らない。

そんなことが頭をよぎる。

だとすれば、このゴーレムを生み出した人物は、相当な魔術師――いや、化け物に違いない。

そんなレベルのゴーレムマスターが、現代にいるはずがないのだ。


「絶対に見つけてやる……」


こんなところで折れるわけにはいかない。

レンの仲間としての矜持が、俺の心を駆り立てる。

そして、俺はふと蜥蜴の魔獣に目を向けた。

沼地を歩き回る大きな蜥蜴は、何かを守るように徘徊している。

では、その何かとは?

そう考えた時、俺の頭にはある仮説が生まれた。


「……もしかして、蜥蜴もゴーレムなのか?」


そう思い至った俺は、視点を変え蜥蜴たちの動きを観察することにした。

本当ならもっと俯瞰した位置で見たいものだが、俺にはレンのような飛行する魔法は持っていない。

すると、ある一点に蜥蜴が集まっているのが見えた。

その蜥蜴の中心には、他の個体よりも黒く額に小さな水晶が埋め込まれた、巨大な蜥蜴の姿があった。


「随分とあからさまだが、あれに間違いなさそうだな」


俺はイーリスを抜いて、その蜥蜴に向かって駆け出した。

走り出した瞬間、周囲を徘徊していた蜥蜴や空を飛び交うゴーレムの瞳が赤く染まり、動きが変わった。

蜥蜴は俺に向け、口から火の玉を吹き出し、ゴーレムは翼をたたみ鋭い嘴を尖らせ降ってきた。


「やばいやばいやばいって!!」


視界を埋め尽くすほどの火球に加え、空から降り注ぐゴーレムも回避しなければならない。

いくらイーリスを持っているからと言って、個人的な戦闘スキルが高いわけではないのだ!

必死にイーリスを振り回し、迫り来る火球を振り払う。

それと同時にゴーレムを紙一重で回避する。

俺の集中力が続く限り――いや、集中力を絶対に切らしてはならない。

唇を強く噛み、全力で走り続ける。

すれ違いざま蜥蜴を斬りつけ道を切り開く。

――標的の蜥蜴が、目前にして一目散に逃げ出した。

周囲を囲んでいる蜥蜴を踏み潰しながら逃げる様に、俺は焦ってイーリスに宿っていた魔力を全力で解放した。


「――待ちやがれっ!!」


マグマから逃げた時と同じくらいの衝撃で吹き飛ぶ体を、なんとか立て直し巨大な蜥蜴の頭を目掛け剣を構える。

蜥蜴の頭上から、さらに角度を変え魔力を創出した。


「はぁ――っ!!」


蜥蜴の脳天に、渾身のひと突きを放つ。

なんの抵抗もなく刺さったイーリスが、眩い光を放ち、蜥蜴の頭を焼き尽くした。

蜥蜴は額に埋め込まれた水晶のみを残して消え去った。

ボスが消えたことによって、周囲の蜥蜴やゴーレムの目から光が失われて動きが止まる。


「……はぁ……やりきった……っ!」


空に拳を掲げ、俺は仰向けに倒れ込んだのだった――。





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