第194話 密林の魔法陣
アイトが一人魔法陣の先へ飛ばされてしまい、残された二人はボートの上でのんびりと待っていた。
あの後、どういう仕掛けだったのか魔法陣は海面まで上昇し、海と同じ青い光を放ち続けている。
それ以外は変わらず穏やかな波に揺られるばかりで、何もすることがない煉はむしろ暇を持て余していた。
「あー……アイトの奴、まだかぁ……」
「まだ二時間しか経っていませんよ。レンさんみたいに、すんなりと戻ってくることなんてできないんですから、気長に待ちましょう」
「そう思ってるのはお前らだけだぞ。もっと自分の力量を正確に認識しろよ」
「してますよ。だからこそ、私たちはまだまだ強くならなくてはならないんですから」
イバラは拳をグッと握りしめる。
煉と二人で旅を始めてからのイバラは、強くなることに貪欲になっていく。
煉も認めるほどの魔術師ではあるのだが、未だイバラにその自覚はない。
度々忠告している煉だが、慢心するよりはマシだと思い、あまり口出ししないようにしていた。
イバラが改めて気合を入れ直していると、魔法陣から泥に塗れたアイトが飛び出してきた。
「うおぉぉぉっ! 戻って、来たぁぁぁぁ!!」
そのままボートに着地――するかと思いきや、煉によって海にはたき落とされた。
「――って、おい!? 何すんだ、テメェ!?」
「そんな泥まみれで飛び出してくるのが悪い。むしろ綺麗にしてやった俺に感謝してほしいくらいだな」
「喧嘩売ってんだな? そうだな!?」
「そんなことしてる場合じゃないですよ。アイトさん、おかえりなさい。早く戻りましょう」
イバラは、火山の時のように何か起こるのではないかと危惧し、二人に帰還を促す。
イバラに諭され、アイトはむすっとしながらも何も言わずボートに飛び乗る。
三人を乗せたボートは、現状の最大出力を出し、全力で元の魔法陣へと向かった。
しかし、なぜか進みは遅くなるばかり。
それに逆に進んでいる感覚すらあった。
「……おいおいおい、マジかよっ」
煉が珍しく動揺した声を漏らす。
ボートの後方では、魔法陣を中心として巨大な渦潮が発生していた。
このままでは、渦潮に呑まれてしまうだろう。
三人は視線を交わすだけで、思考を共有した。
最優先は、渦潮から逃れること。そのためにボートの操縦をイバラに任せ、煉とアイトはボートの後部へと即座に移動。
アイトは自分の所持していた最上級の魔石を惜しみなく注ぎ込み、煉は海面に手を付けなりふり構わず魔力を解放した。
大量の魔石による出力強化と煉の魔力放出による衝撃で、ボートは渦の流れに逆らい吹き飛ぶように進んでいく。
その速度は、火山の時の比ではなかった。
「「「――――――っ!!!!」」」
三人の絶叫が重なり、その勢いのまま元の島へと通ずる魔法陣へと吸い込まれていった。
◇◇◇
疲れ切った様子で、温泉で休憩という工程を繰り返した三人が、次に向かった先はジャングル。
蒸し暑い空気と生い茂った大量の樹々に鬱陶しさを感じる島だ。
大きな木の根が露出して足場も悪い上、大木に囲まれ視界も良くない。
こんな島に隠された魔法陣を探すなど、正気の沙汰ではない。
「……こんな島のどこに魔法陣があるって言うんですか……?」
「そうだぞ、レン。火山に海中……今度は樹の中ってか?」
「そんな単純ならいいんだけどな……」
そう呟く煉だが、その足取りに迷いはない。
ジャングルの中をぐんぐんと進み、少し開けた場所に出た。
その中心にはいつかの森の中で見たような一本の大木が生えている。
その幹に刻まれた魔法陣を見て、三人は言葉を失う。
「……」
「……」
「……」
「これ作った奴は、案外単純なのかもしれない……」
小さく零した煉の言葉は、少し悲し気に聞こえた。
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