第192話 海中の魔法陣
「……酷い目に遭いました……」
疲れ切った表情で、イバラはそう呟く。
押し寄せるマグマから辛うじて逃げ切った三人は、温泉に足を浸け疲れを癒していた。
「うぷっ……さすがに、あんなのは二度とごめんだ……っ」
「まあ、生きてるだけマシだろ? それより、攻略法を見つけたんだ。次に行こうぜ」
次の目的地へと意識を切り替えた煉は、すっきりとした表情で立ち上がった。
イバラもアイトも、嫌そうな顔をして内心拒否している。
しかし煉はそんな様子に見向きもせず、魔法陣の下へと歩き出した。
◇◇◇
三人が次に向かったのは、地面が海に沈んでしまった浮遊島。
見渡す限り一面海の景色は、風もなく穏やかな波の音が心地よい。
しかし魔力も上手く制御できない状態では、足場を作ることもままならない。
前回の探索時にはそのことに気づく前に、アイトが作った魔道具のボートで探索を行っていた。
今回も同様に、ボートに乗り海を探索している。
「……正直、魔石が心許ない。こんなに魔力を消費するとは思わなかった。いつ魔力切れで止まることになっても許してくれ」
「それはそうなった時に考えよう。今は魔法陣を探すぞ」
「とは言え……こんな海の世界でどこに魔法陣があるのですか……?」
「そんなもん、海と言えば……な?」
と、意味深な笑みを浮かべ煉は下を指さした。
煉の意図することを察した二人は、乾いた笑いを浮かべる。
「レンさんったら、魔法も使えないのに海の中に潜ろうとするだなんて。冗談もほどほどにしてくださいよぉ~」
「ハッハッハー。レンはたまに突拍子もないことを口にするなー」
「――いや、本気だから」
「……」
「……」
「たぶん、この下にあると思うから」
そう言ってボートの真下に目を向ける。
煉たちのいる地点の海中は、他とは比べ物にならないほどを暗い海の底が窺える。
太陽の光も届かないほど深いことが一目見ただけでわかるほどだ。
そんな海中の中にあるだろう魔法陣を、どう探すのだろうかと二人は首を傾げていた。
「少量の魔力ならギリギリ制御できるから、炎の膜で俺たちを包み込む。そのまま海の中にドボン。流れに身を任せて沈んでいけばいいさ」
「海の中だぞ? 炎なんかすぐに消えちまうんじゃねぇか?」
「そこはほら大罪魔法だし、俺のイメージ次第でどうとでもなるから」
「……その魔法ってなかなかずりぃよな。世界で七人しか使えないわけだ」
アイトが羨ましそうにそう言う。
煉は意識を極限まで集中させ、魔力を集め始めた。
額に脂汗を掻いている様子から、それだけこの浮遊島の中で魔法を使うことが難しいことだというのがわかる。
三人はそれぞれ手を繋ぎ、その周囲を紅い膜が覆う。
「……それじゃ、行くぞ」
大きく息を吐いた煉が告げ、三人を包み込んだ紅い被膜は静かに海に沈んでいった。
海の中は、岩も草も底もなく、魔獣もいない。
音すらない穏やかでとても幻想的な青の空間。
海の中を見渡したイバラがホッと息を吐く。
三人はゆっくりと、止まることなく沈んでいき、そろそろ百メートルに差し掛かろうというところに、海の景色に溶け込んだように魔法陣が設置されていた。
「……あれだな」
「レンさん、大丈夫ですか? 辛そうですけど……」
「問題ない。このまま沈んでいけば、丁度魔法陣に乗るだろう」
「な、なんか緊張してきた……」
そして被膜が魔法陣に触れた瞬間、魔法陣は青い光を放ち海中を照らした。
思わず三人は反射的に目を閉じた。
光が収まった頃、目を開けた二人は驚愕の表情を浮かべることになる。
◇◇◇
――そこは、薄暗い湿地帯。
極浅い沼が敷き詰められた中を徘徊する蜥蜴の魔獣と、雲に覆われた空を飛び交う鳥型のゴーレム。
そんな中、呆然と呟く声が弱々しく聞こえた。
「……マジかよ……」
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