第259話 vs 猛犬

 リヴァイアの空に日が昇り、朝早くから街の人々は闘技場へと歩いていく。

 勝ち残ったAランク冒険者による準決勝が行われるその日、誰が勝ち残るかと盛り上がっている。

 そんな中、ある情報が齎された。


 ――獣王戦士団ヴェインの準決勝辞退。


 必然的にコノハの決勝進出が決まり、コノハの戦いに期待していた人たちには落胆の表情が浮かんでいた。

 当のヴェインは、目的は果たしたと試験結果も聞かず早々に国へ帰ったらしい。

 対戦を楽しみにしていたコノハも肩を落とし、宿へと帰って行った。

 想定外の事態に運営のギルド職員も混乱しているが、予定通り準決勝は行われる。

 ステージの上に煉とウリンが姿を現すと、歓声が轟く。


「よお。この日をずっと待ってたんだ。いつかの依頼でお前と相見えた時からずっとな」

「俺は別に待ってなかった。あの時決着付けたはずだろ」

「飛竜の討伐数を競っただけだ。そんなんで決着なんて言ってくれるんじゃねぇよ。お前とは直接槍を交えたかったんだ。お前なら……簡単には壊れないだろうからな」


 ウリンは嬉しそうに笑みを浮かべながら、二振りの槍を振り回す。

 相対する煉は面倒そうにため息を吐き、腰に下げた「神斬」を抜刀した。

 互いに距離を取り武器を構えると、二人を中心に闘技場は異様な空気に包まれ静寂が訪れた。

 観客も息を呑み、ただ静かにステージの二人を注目していた。

 すでに鐘は鳴らされている。その音すら聞こえない程二人の意識は目の前の相手に向いている。

 睨み合ったまま時間だけが過ぎていき――同時に地面を蹴った。


「「――っ!!」」


 中央で太刀と槍がぶつかり合い大きな衝撃を生む。

 剣戟は一瞬。ウリンは煉の太刀と鍔ぜり合う度距離を取り、持ち前のスピードでステージ全体を駆け回り煉を翻弄する。

 手数とスピードで煉を追い詰めていくつもりのウリン。

 しかし、煉の脳裏にはかつて戦った魔将軍が思い起こされていた。


「……目には目を、歯には歯をってな」


 そう呟くと、煉はアイテムボックスから一振りの小太刀を抜いた。

 両手に刀を持ち、同じ二刀流でウリンに対抗する。


「おいおい、付け焼刃の二刀流で俺に敵うと思ってんのか!?」

「付け焼刃かどうか、試してみるか?」

「上等だ……。手加減しねぇぞ!!」


 ウリンが叫び、煉へと肉薄する。

 闘技場にはぶつかり合う刀と槍、そして衝撃でステージが砕ける音のみが響く。

 互いに譲らぬ槍術と刀術。積み上げてきた技術の応酬に観客は目を奪われていた。

 徐々に二人の体に切傷が増えていく中、両者ともに笑みを浮かべている。


「ハハハっ! 楽しいなぁ! だが――もっとだ! もっと俺を楽しませろ!」

「お前を楽しませる気なんてない。とっととくたばれ!」


 何度も衝突を繰り返し、そのたびに大きな衝撃を生む。

 衝撃に耐えきれなくなった地面が突然大きくひび割れた。

 それを機に二人は一度距離を取った。

 ウリンは楽しそうに笑い声を上げる。


「こんなんじゃ足りない。もっと俺の心を震わせてくれよ、レン。第二ラウンドだ」


 すると、ウリンの双槍に変化が起こる。

 ウリンの足元に緑色の魔法陣が発生し、二本の槍が形を変え収束していき一本の長槍となった。

 長槍を振り回すと突風が巻き起こり、風が槍を纏っていく。


「いいのかよ。『双槍の猛犬』の名が泣くぞ」

「元は一本の長槍を魔法で分断していただけだ。勝手に双槍と名付けられたが、ようやく本領を発揮できる。お前もまだ隠してるものがあるんだろ? 早く出せよ」


 ウリンは予選で目にした「紅椿」を出せという。

 しかし、それに従う煉ではなかった。

 小太刀をアイテムボックスに仕舞い、「神斬」に蒼炎を纏わせていく。

 そして挑発的な笑みをウリンに向けた。


「これで十分だ。かかってこい」

「……舐めやがって。後悔すんじゃねぇぞ!!」






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