第8話 そして煉は――
煉が軟禁されてから翌日。
再び玉座の間に連れてこられた。
その時の煉は既に何の感情も示さなかった。
あるのはただ話を聞く意思のみ。
「其方の追放が決まった。これより場所を移す。異世界の勇者たちと近衛騎士のみついて参れ。他はしばし待機せよ」
それだけ言うと、王は宰相を連れ玉座を後にした。
命を受けた騎士たちは迅速に行動し、生徒たちは何処に行くのかと怪訝な表情を浮かべ、のそのそとついていった。
着いた場所はとある魔法陣が描かれた部屋。
彼らがこの世界に召喚されたときに見たものと少し似ている。
しかし、彼らはこの二週間のうちに魔法についても学んでいたため、この魔法陣の意味をそれなりに理解していた。
「なんだこの魔法陣」
「転移系……どこかとつながっているのかな」
「ここからさらにどこに行くって言うんだよ」
煉はただその様子を見ていた。
「静粛に。陛下の御前ですよ」
宰相が声をかけると勇者たちは静かになった。
今はただ皇帝の言葉に耳を傾けている。
「アグニ・レン。其方を――谷落としとする」
「…………へぇ」
煉も想定外だったのか感情が戻った。
「こんなことでそこまでするのかよ。大丈夫か? 帝国の醜聞とか広まるかもしれないぞ」
「貴様! 陛下に対して何たる口の利き方を!!」
「良い。……余も今回のことは考えさせられた。異世界から強制的に召喚してしまった其方にこのようなこと。しかし、それでも余は皇帝として帝国のために一を犠牲にする。恨むのであれば余を恨め」
皇帝は煉のもとへ近づき、小声で煉にだけ聞こえるようにそう言う。
その言葉からは皇帝としての意思を感じるものがあった。
煉はにやりと笑い、皇帝に言った。
「あんたがまともな王様で安心した。だったら忠告しといてやる。あの勇者はいずれ帝国の害になるかもしれない。気を付けたほうがいいぞ」
「…………ふむ。心に留めておこう」
「あとは…………いや、やめておこう」
「構わぬ。何でも言うが良い。それが余にできる其方への贖罪である」
「なら……美香に伝言を頼む」
美香への伝言を皇帝に言い、最後に無邪気な笑顔を見せる。
煉のその顔を見て、皇帝も目を丸くした。
「心得た。しかと伝えることを約束しよう」
「ああ、それで十分だ」
煉と皇帝の秘密の話し合いは終わった。
そして、転移の準備に入った。
「陛下、僕も彼と話をしてもよろしいですか?」
「良い。好きにせよ」
「ありがとうございます」
今度は勇者が煉の側に来た。
煉の耳に口を近づけ一言。
「……美香は僕に任せるといい。安心して――――死んでくれ」
狂気に染まった勇者の笑みを見て、煉はようやく理解した。
(そういうことだったか……)
勇者がなぜ煉を罠に嵌めたのか。
美香の側にいる煉を許せなかったからだと、それに気づいた煉は自嘲した。
そして声を上げて笑う。
急に笑い声をあげた煉に周囲は不気味さを感じた。
「何がおかしい?」
「いや、別に。俺もまだまだだと思ってな」
「そうかい。まあ所詮ジョブなしの無能だからね」
「そうだ。お前に一つ言っておくことがある」
「何かな?」
「――――お前じゃ足りない。諦めな」
そう言って煉は不敵に笑った。
それを見た勇者はさらに顔を歪める。
まるで不快だと言わんばかりに。
「……バカにしているのか?」
「いんや、全然。ただ本心からそう思っているだけだ」
「それを……バカにしていると言うんだ!!」
「がはっ!」
怒りを露わにした勇者は煉の腹を蹴り上げた。
両手を後ろに拘束されている煉は抵抗できずにその場に崩れ落ちた。
突然のことに周囲も動揺していた。
その中で近衛騎士だけが迅速に対応し勇者と煉の間に立った。
「勇者殿! 何をしておるか!」
「うるさい! こいつが悪いんだ!」
「……お、いおい……ゆうしゃさ、まが……こん、なこと……して、いいのか?」
「黙れ。お前が僕を馬鹿にするからいけないんだ」
「ハハッ。まるで子供だな」
「……おい。その目をやめろ」
「言われてやめるとでも? それに俺は見てるだけだ」
「不愉快だ。今すぐやめ……な、なんだその目は!?」
「ああ? 熱っ」
勇者が急に声を荒げたことを不可解に思った時、煉は右目の周辺に熱を感じた。
鏡を持っていないため、自分で確認できないでいるが、周囲は煉の変化に動揺していた。
煉の右目の下には幾何学的な模様が現れていた。
「近衛よ。勇者殿は動転しておられる。部屋に連れて休ませるがよい」
「はっ」
「宰相、首尾は」
「整っております。いつでも」
「うむ。それではこれよりサタナエル・バレーへと転移する」
勇者は抵抗していたが、近衛に連れられ転移の間を離れた。
そして煉は転移し――――。
◇◇◇
「がはぁっ! はあ……はあ……。ここは……そうか、ここが谷底か。よく生きてるなぁ、俺。体中ボロボロだし、肋骨何本かいってるなこれ。ていうか、真っ暗で何もみえねぇな。とにかく生きているだけ良しとするかぁ……」
自分から谷に落ちた煉は、かろうじて生きていた。
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