第285話 ラミエル
「よく来たね! 憐れな天使共!」
快活な声で迎え入れられた私たち。
谷の底にあった小屋の中は、まるで普通の家のようで、妙に落ち着く。
それでも一つ気になることがあったので、こちらが名乗る前に思わず訊ねてしまった。
「あの……」
「ん? どうした新米天使。私の顔に何かついてるか?」
「いえ……ど、どうして、水着なのですか?」
ミカエルと思われる元熾天使の女性。造形が整っていてスタイルのいい美女。
短く切りそろえられた黒髪のショートカットがとてもよく似合っている。
可愛いというよりも、綺麗やカッコイイといった言葉がふさわしい。
しかし、その美女はなぜか大胆な黒いビキニを着ていた。
「なぁにを馬鹿なことを。ここは海の中だぞ? 水着を着ているのが当たり前だろ」
「そんな当たり前があるわけないでしょ。そんなことより、お茶とお菓子をいただける? ここまで強行してきたからお腹が空いているのよ」
「来て早々に厚かましい奴め。キッチンにあるものを適当に準備させる。座って待ってろ」
そう言われると、ガブリエルはソファに腰かけまるで自分の家のようにくつろぎ始めた。
もう何が何やら理解できず、呆然と立ち尽くしてしまった。
「? お前も座れ。どうせガブリエルが何も言わずに連れてきたから混乱してるのだろう。――まだ名乗ってなかったな。私はラミエル。元十二熾天使の一柱にして、神へ反抗した者。今は神に対抗すべく、叛逆の徒を集めているところだ。志を同じくする者であれば、歓迎するぞ」
◇◇◇
「……ほぉ。お前も神に対して不信感を覚えたのだな、ミカエルよ。それほどの力を与えられてよくぞ……」
これまでの経緯について話すと、ラミエルがそう言った。
褒められているのだろうか……。
「そう。この子が私たちの仲間になれば頼りになるわ。神もまさかこの子が裏切るとは思ってないでしょうし」
「それ以前に奴らは天使を都合のいい駒としか思っておらん。私がこうして秘密裏に動いているのにも気づいてはいないだろう。自分たちに害はないと胡坐をかいているのだ。その慢心が、奴らの首を絞めることになるとは思わずな」
「……私はまだ仲間になるなど言っていないのですが」
私がそう言うと、二人の天使は呆れたように溜息を吐く。
私何か変な事言った?
「ここに来ておいて今さら何を言っているんだ」
「秘密を知ったからには逃がさないわよ?」
「何も言わず連れてきて理不尽な……」
元はと言えば、ガブリエルが付いてきなさいと言って無理矢理連れてきたのに。
なぜか無理矢理仲間にされているこの状況。私のせいではないはず。
「そう言えば、今日はお友達はどうしたの? 姿が見当たらないけど」
「珍しくこの地に客人が訪れていてな。そやつらと遊んでいるのだろう」
「へぇ。珍しいこともあるのね。こんな辺鄙な地にお客様だなんて」
「うむ。それも中々に面白そうな奴らでな。紅い髪の男と鬼の少女、それと騎士王の末裔だ」
「――え? それって……」
その特徴は……もしかして彼らがここにいるのか。
かつても死界と呼ばれる危険地帯にいたことがある。
ここもその死界の一つだ。となると、彼らの目的は死界にあるのだろうか。
一体何が目的で……。
「知っているのか?」
「え、ええ……以前、主の命によりその紅い髪の男を始末しようとしたことがあります。主が言うには、その男は忌々しい力を宿していると……」
「!? もしや、叛逆者か! 大罪の力を持つ七人のうちの一人なのか!? それは僥倖。この機を逃すわけにはいかん! そやつらに話を聞かねば!」
「待ちなさい。まだそうと決まったわけではないでしょ。ここは様子を見ましょう。どうせ、あの子たちが遊んでいるわけだし。視ることはできないかしら?」
「うむ。百目の力をもってすれば容易いことよ。奴に目を飛ばしてもらい、映像をこちらで見れるようにしよう」
少し待つと、どこからか目玉が飛んできた。
な、なにこの生き物……?
その目玉は、他の目玉が見ているものを映し出すことができるらしい
まるでテレビの中継みたいね。……テレビって何かしら?
それより映し出された映像に目を向ける。
ラミエルの言っていた特徴の三人が、真っ暗な洞窟の中を小さな灯りを頼りに進んでいるようだ。
少し距離があるみたいで、顔の判別ができない。ラミエルがもっと近づけないかと言うと、だんだん三人の下に映像がズームされていく。
すると、ふいに隣から小さな呟きが聞こえてきた。
「――……アイト?」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます