第66話 熾天使
阿玖仁君は変わった。
そんなに話したことがないから本当にそうかは分からない。
それでも、美香から聞いた阿玖仁君とはイメージが違った。
だから変わったと言える。
「神谷? 何して……あれって阿玖仁か」
「そうよ。彼も呼ばれていたのは知っていたでしょう」
「何か話せたのか? あいつと」
「大したことではないわ。本当に……」
そう。大したことではない。
ただの私の自己満足だもの。
須藤君が心配そうな目で私を見る。
そんな顔をしないでいいのよ。
須藤君も彼と話す機会があればわかる筈だから。
「……それにしても、美香は何処で何をしているのかしら」
「江瑠間か……あいつなら大丈夫だろ。うちの奴らの誰よりも強いからな」
「能力はそうね。でも……」
「でも?」
「ううん。何でもない。よし、戻りましょう」
私は修練場に向かう。
今はいろいろな人と戦って経験を積まなきゃ。
今のままでは、いつか死んでしまうから――。
◇◇◇
「――――ラファエル、ウリエル。準備なさい。主神より御下命を賜りました」
「ミカエルが頼まれたことだろ。あたしたちには関係ないじゃないか」
「そうね。わたくしたちが一度に出る必要はないかと。ミカエルお一人で事足りる些事でございましょう」
神が住まうとされる天上世界。
その下層に位置する雲の上の教会では三柱の天使が一堂に会していた。
燃えるような真っ赤な髪の野性味を感じさせる美女――ウリエル。
金の髪に落ち着いた雰囲気で知性を感じさせる美女――ラファエル。
そして、蒼い髪のクールな印象を与える美女――ミカエル。
彼女らは十二柱いる天使の最高位『熾天使』であった。
「確かにあなた方の言う通りです。本来であれば私一人で十分です。しかし、我らが主よりお言葉をいただきました。『侮るな』と。であれば、我ら三柱の熾天使が揃えばより万全にことを為せることでしょう」
「それならば下位の天使を率いればよろしいのでは? わたくしたちが出ては過剰戦力というものです」
「正直暴れられるならあたしは構わないが、所詮下界の人間の処理だろう? それじゃ気分が乗らねぇ」
「姉様、言葉が汚いですわ。もっと淑女の慎みをお持ちください」
「そんな堅苦しいのは嫌いだね」
不貞腐れるウリエルの態度を見て、ラファエルは呆れたようにため息を吐いた。
ミカエルはまるで気にすることなく話を続ける。
「大した力のない大天使たちに足を引っ張られては、私の使命に支障が出ます。なのであなたたちに協力を要請しているのです」
「はぁ……仕方ないですね。わかりましたわ。協力いたしましょう。ただし、これはミカエルの使命。わたくしたちは簡単なお手伝い程度の事しか致しません。それでよろしいのですね?」
「ええ、構いません。あなた方には私が標的を仕留めるまで邪魔者の排除をお願いします」
「ええ! なんだよそれぇ! つまんねぇ~」
「姉様、我儘をおっしゃらないでくださいませ」
「なあなあ、ミカエルの今回の標的ってどんな人間なんだ?」
「今回は人間ではありません。標的は――――魔人です」
ミカエルは無表情のまま感情のこもらない冷たい声でそう口にした。
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