第159話 事情聴取

「――で、説明はしてくれるんだろうな?」


 今国中では魔郡帯の島の一つが、突然炎上しそのまま海の底に沈んでしまったとい話題で持ちきりだ。

 幸い、その島にいたミズハノメの猟師たちは島の中心で噴き出した炎と毒を見て、一目散に島から逃げ出したそうで、死者はゼロとなっている。

 ここ数日のミズハノメの気候変動にも影響しており、国では詳しい事実を調べようとしているらしい。

 そんな中、激しい炎という情報と煉たちがミズハノメ周辺の魔獣討伐依頼を受けているのを知ったクレインは、ギルドの執務室へと三人を呼んだのだった。


「説明って、一体何を話せばいいんだよ」

「決まってんだろ! 魔郡帯の島のことだよ! この話が解決しなければ、しばらく魔郡帯での行動が制限される。そうなるとミズハノメの連中は狩りが出来なくなってしまう。だから、正直に話せ」


 クレインの中では犯人が確定しているようだ。

「炎魔」という名前を知っている者であれば、それも当然だが。

 それを察した煉は、大きくため息を吐いてしらを切ることをやめた。


「はぁ……。バレてんなら仕方ねぇか」

「ギルドマスタ―が分からないはずないでしょう。諦めて反省してください」

「反省すらしてないのか……。お前の神経どうなってんだよ」

「仕方ないだろ。正直な話、不可抗力だ。襲われただけだしな」

「へぇ。炎魔ほどの男を襲うような奴がいるとはな。こりゃ驚いた」

「――――一人はあんたの弟だよ」


 クレインは目を丸くした。

 クレインの記憶では、弟であるグラムは人を襲うような男ではない。

 温厚で礼儀正しい人となりだったはずだが、やはり「悪食」と呼ばれるようになってから変わったことを実感した。


「……そうか。それは面倒をかけたな。だが、それとこれとは話が別だ。どうしてグラムに襲われたからと言って島が沈むことになるんだ?」

「ちっ……」

「おい、今舌打ちしたか? したよな? 相変わらず生意気な小僧めっ」


 そんなやり取りを繰り返し、煉は素直に話すことにした。

 大罪魔法士ということは今は伏せ、グラムともう一人に襲われた事。

 イバラとアイトを気にして加減している状態では撃退できそうもなかった事。

 イライラが溜まった煉は、仕方なく島ごと二人を沈めてやろうと思った事。

 説明している間、クレインは表情を変化させることなくただ耳を傾けていた。

 そして煉の話が終わると、我慢していた分が溢れだした。


「――結局、お前が悪いんじゃねぇか!!」

「あれ、バレた?」


 てへっ、と可愛らしく誤魔化そうとした煉だが、怒りが絶頂に到達したクレインの前では無意味であった。

 その日、ギルドではクレインの叫び声が数時間響いていた。

 ギルドに居た人間全て、触らぬ神に祟りなしと、誰も気にすることなく日常を過ごしていたのだった。




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